ブラジル大統領選を前に

◆10月3日の投票日を待つブラジル大統領選。選挙戦を通じてサンパウロにいましたが、静かな中で当日を迎えることになりそうです(あくまで2004年ウルグアイ大統領選との比較ですが)。世論調査会社のDatafolhaの最新の調査によれば、ルーラ現大統領の後継者である中道左派のジルマ・ロセフ候補が有効投票数の50%を獲得する見通しで、対抗馬の中道右派のジョゼ・セーハ候補(31%)、中道左派のマリナ・シルバ候補(17%)を突き放す流れとなっています。3日の投票で有効投票数の過半数をいずれかの候補が達成した場合、上位2候補による決選投票は行われません。地元紙の関心事項は、果たしてロセフ候補が過半数を達成するかの一点に集中されています。

◆様々な分析があるかと思いますが、主要候補と言われていたロセフ候補とセーハ候補いずれが勝利しても、ブラジルの政治経済にインパクトを短期的には与えないというのが一般的な見方です。それでもロセフ候補が勝利する要因は何かというと、有権者の多くが「変化」よりも「安定」を優先したためでしょう。それは、従来、中道右派が強いとされるブラジル南東部および南部においてもロセフ候補の支持が高いことから裏付けられます。セーハ候補が現在のブラジルを更に良くするための独自のメッセージを出すことができなかったこと、そして独自のメッセージがあったとしてもそれがぶれた印象を与えたことで支持の拡大に至らなかったのではと見ています。

◆次に、選挙戦略的には、やはり大票田を奪った候補者が勝つとの鉄則に尽きます。ブラジルの大票田は低所得者層です。ブラジルでは投票が義務のため、政治にさほど関心を有しない低所得者層まで投票行動に及びます。過去の大統領選挙で何度も苦汁を味わってきたルーラ大統領が最後に行き着いた結論は、この大票田へのバラマキだったのでは思ってます。そして、タイミングが良かったのは、そのバラマキをやる軍資金(オイルマネー等)が政府にあったこと。低所得者向けの住宅政策等を通じて、それら層が集積する北東部および北部の支持を確固としました。

◆これまで経験したことのない安定成長を前に、今のブラジル国民にとって「変化」とは必要としないキーワードになっています(この辺りが先進国とは異なります)。低所得者層にとっては、引き続き中道左派による手厚い支援を通じて待遇が改善することを期待するでしょうし、中間所得層以上の人々にとっても余程のことは起こらないだろうとの思惑が働くでしょう。ロセフ候補がどのような人物かを吟味せず、「ルーラ大統領が選ぶ候補だから」という判断基準を以て投票する有権者が相当数を占めることになるのではないかと思われます。

◆ただ、実は与野党とも今回の大統領選挙はそれほど重きを置いておらず、既に視野は次の2014年大統領選挙に移っているとの見方もできます。ルーラ大統領が再び選挙戦に登場する可能性は現時点で高く、ブラジルの国家的イベントとなる2016年のリオ五輪の開会式を視野に入れているのではとの憶測もあります。一方の野党も、何度も大統領選挙に登場したことがある手垢のついた候補ではなく、新鮮な候補が登場する可能性が高いと見られています。

◆最後に、今日現在のような過去にない安定感をもったブラジルが4年後も続いているとの楽観論が大勢ですが、現政権および与党が進める財政規律で、どこまで経済および財政を保つことができるのかは未知数です。世界経済の中で、過去にリーマンショックからの立ち直りが早かったことは事実ですが、それがブラジルの実力を意味するわけではありません。優秀なテクノクラートをこの国は抱えていますが、今年前半の欧州の動き一つでブラジルも少し風邪を引きかけたことは確認されています。2010年に中道左派候補が勝利することは、中期的には大きな意味合いを持つ余地を残していると見ています。
[PR]