国境沿いのバイアグラ

◆南米の面白さの一つは国境沿いの町にあるのではないかと思っています。ウルグアイに滞在した3年間では、ウルグアイとブラジルだけではなく、ウルグアイとアルゼンチン、アルゼンチンとチリ、ペルーとボリビア、ブラジルとアルゼンチン、ブラジルとパラグアイといった風に数多くの国境沿いの雰囲気を楽しませてもらいました。

◆ひとえに国境沿いといいますが、南米の中でも当然国によって「適当さ」に変化があります。例えばブラジルとアルゼンチンの接点となるイグアスの滝周辺は、物流の流れがダイナミックである一方、ブラジル側が一向に国境検査官の人員を増やそうとしない官僚的なところが重なって渋滞がよく起こるそうです。また、ウルグアイとアルゼンチンを結ぶのは合計3本の橋。これらは現在セルロース工場建設のために閉鎖が繰り返し行われています。

◆一方で牧歌的なのがウルグアイとブラジルの国境沿いです。南米に住む日本人の方々の常識として、ブラジルに入国するためにはビザが必要ですが、この両国間の場合、自家用車又は徒歩である限り国境沿いの警備は非常に緩いです。きちんとビザを取得して国境沿いをドライブしたことがありますが、国境周辺である限り、検問は全くなし、ブラジルの広大な国境においてウルグアイは「害のない」国境沿いだと思われているのかもしれません。

◆そんな折、ニッケイ新聞で次のような記事が出ていました。

隣国でヴァイアグラ買出し=ウルグアイ=伯で転売、大儲けの人も
 【フォーリァ・デ・サンパウロ紙十九日】性的興奮剤として一躍名を馳せたヴァイアグラの類似品が安価で入手できることから、ブラジルとの国境の町のウルグアイ領リベラ市はブラジル人買い出し客でにぎわい。ヴァイアグラ詣での様相を呈している。
 価格はブラジルで平均一錠当り三〇レアル(注:1レアル=65円)だが、ウルグアイでは一・九〇レアルとチョー安値となっている。また医師の処方も必要なく購入数量も制限がないことも人気を集めており、週末になるとブラジル人でゴッタ返すという。
 主に自己消費用だが、なかにはブラジル国内で転売して利ザヤを稼ぐ人も多くいる。ただしブラジルの法令では禁止されており、大々的な密輸は行われず、個人が持ち帰るにとどまっている。ウルグアイ製をブラジル国内で販売した場合、営業停止処分のほか、一五〇万レアルの罰金となる。個人の取締りは連警の管轄だが、まだ取締りに乗り出していない。
 ウルグアイでは医薬品製造のパテントに効力がないことが安価の原因となっている、このため類似品が手軽に生産できる。ヴァイアグラはアメリカのファイザーがパテントを握っているが、ウルグアイではお構いなしに五種類以上の類似品が出回っている。
 リベラ市の薬局では、人気が高いPLENOVITを週末平均で一〇〇箱販売し、その買い手はすべてブラジル人だという。同製品は一箱二〇錠入りで三八レアルが定価。
 リベラ市に隣接するブラジル領のサンタナ・ド・リブラメント市在住の商人は、これまでリベラ市のフリーショップで化粧品や飲物、電気製品を購入してリオ・グランデ・ド・スル州で転売してきたが、昨年から「ウルグアイのヴァイアグラ」専門になった。
 週末にバスでリベラ市に入り、二〇錠入りを二十五箱仕入れている。仕入れ価格は三八〇〇レアルで、これを一錠当り八レアルで売ると、二〇〇〇錠で一万六〇〇〇レアルとなる。仕入れ価格とバス代および滞在費用を差引くと実質一万レアルの利益となり、笑いが止まらないという。これまでに取締りや検問にあったことがないとのこと。


◆この記事はウルグアイを知る上で面白いヒントが盛り込まれています。3年間ほど国境沿いの町を幾度となくドライブしましたが(といってもウルグアイからリベラ(写真参照)までは550キロ近くあるかと思います)、年々ブラジル人の観光客が増えてきていました。自分はその理由をてっきりレアル高によるブラジル人の買い物ブームと思っていましたが、この記事によれば、「裏」の理由もあったというわけです。なお、この記事ですが、いつもウルグアイ土産に悩むウルグアイ在住日本人の方々には朗報かもしれません(まあ、悪い冗談として流してください)。

◆そして、記事にある「ウルグアイでは医薬品製造のパテントに効力がないことが安価の原因となっている」という文章に注目した方、この点とウルグアイと米国とのFTA構想という点を線で結んでいただければと思います。実は、この線で見えてくるところが先の構想が成就しなかった「裏」の理由になるかと思います。米国政府がウルグアイとの間でFTAを結ぶ際にメリットとなる一つは知的財産権や特許の面でのグローバル化をウルグアイにも適用させていくことだったように思われます。米国にとっては、貿易量も大したことがなく、南米左派大陸に対する政治的なインパクトはあるものの、経済的な大義が求められるとき、唯一のポイントがこの医薬品製造のパテントだったと当時から報じられていました。

◆そして、当時の報道を振り返ると、9月下旬にウルグアイ政府はFTAの見通しにかかる報告書を作成するのですが、その中でこのパテントの件が明記されていました。その後、バスケス・ウルグアイ大統領による対米FTA構想断念の声明が出たとき、一般的に報じられていた与党・左派連合による反対とは別の線で、この医薬品製造業の政治力と医者出身のバスケス大統領との関係という切り口から調べたかったことを思い出しました。今となっては、もう少し調べても面白かったかなと思うテーマの一つです。
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