メルコスールの本質

◆6月5日、東京でメルコスール・セミナーが開催されました。今ではウルグアイと全く関係のない仕事をしていますが、ウルグアイで一緒に仕事をしたことのある方がウルグアイ代表スピーカーであるとの知らせを受けたので、会社を休んで挨拶のため出掛けることにしました。

◆はじめに、セミナーに出席して驚かされたのは参加者の多さです。今から4~5年前に似たようなテーマのセミナーに足を運んだことがありましたが、その時はまるで観衆の多くが時間潰しにやってきたかのような停滞した雰囲気が漂っていたものです。現在は資源や食糧、エタノールとホットな話題が何かと多いメルコスールに日本人の関心が向かっているのは良い傾向なのかもしれません(斜に構えた表現をすれば、彼らはブラジルだけに興味があるのかもしれませんが・・・)。

◆少しメルコスールを齧ったことのある人間としては、セミナーを通じて幾つか印象深い発言がありました。なかでも象徴的だったのは、メルコスール常設委員会委員長(メルコスールのトップ)であるカルロス・アルバレス氏の基調講演でしょう。

◆メルコスールへの投資誘致を主な命題として、加盟主要4カ国の代表者がそれぞれ役割分担をして仲良く講演をしたのが今回のセミナーの表向きの体裁だったのですが、現在のメルコスールを眺めると、発足以来最も「仲良くない」状況にあるといっても過言ではありません。特に、メルコスール域内諸国の間の不均衡性に対して小国の悲哀を味わっているパラグアイ及びウルグアイは厳しい態度で挑んでいますし、一方でアルゼンチンは大国主導スタイルの維持を念頭に小国への配慮の欠片も見せていません。基調講演でアルバレス委員長は地域不均衡に対して理解あるコメントを述べていましたが、母国を思えば、その発言もリップサービス以上に捉えることは難しいでしょう。

◆そのアルバレス委員長のコメントで「秀逸」であったのは、メルコスール創設の成果を語った時です。第一の成果として挙げたのが地域間の民主主義の醸成と政治的な安定でした。ご承知の方も多いかと思いますが、メルコスールを日本語にしますと「南米南部共同市場」でして、その目的については、ご丁寧にも外務省のHPに説明があります。

【目的・原則】
(1)域内の関税及び非関税障壁の撤廃等による財、サービス、生産要素の自由な流通
(2)対外共通関税の創設、共通貿易政策の採択及び地域的、国際的経済・貿易面での立場の協調
(3)マクロ経済政策の協調及び対外貿易、農業、工業、財政・金融、外国為替・資本、サービス、税関、交通・通信などのセクター別経済政策の協調
(4)統合過程強化のための関連分野における法制度の調和

◆そのような目的・原則によって形成されたメルコスールは、発足当初から関税同盟であり、政治的な意味合いを含むものではありませんでした。したがって、昨年ウルグアイが一カ国のみで米国とFTAを締結しようと動いた際にも、ブラジルやアルゼンチンはそのような原則を突きつけ、頑なな対応に終始したのです。域外諸国・地域との通商交渉等に際しては一つのブロックとして交渉することが「メルコスールの魂」であるというのがメルコスール加盟国間の暗黙の了解になっています(バスケス・ウルグアイ大統領も昨年末にはそのようなフレーズを使って、メルコスール加盟国に対してひとまず妥協した経緯があります)。

◆ところが、肝心のメルコスールのボスの口から出てきた言葉は、過去15年程度の共同体の最大の成果は政治的なものであり、経済面については「(EUでさえ数十年かかっているのであり、メルコスールは)未だ発展段階」と言うにとどまっていました。ちなみに、アルバレス委員長は第二の成果として経済的安定を挙げましたが、それはアルゼンチンが経済危機を起こした2001年以降であるとして、あくまで「アルゼンチン中華思想」を貫徹していました(まあ、自国経済が好調であれば、それで良いのでしょう)。

◆そのようなアルバレス委員長の言葉の端々に垣間見える大国の驕りに似た意識と原理原則の都合の良い使い分けに対して、ウルグアイをはじめとするメルコスールの小国は大きく反発していますし、昨年来顕在化している脱メルコスールの動きになっているのです。アルバレス委員長に拘れば、どうしても加害者の立場というのは、被害者の心がわからず、メルコスールのトップに立っていながらも、あのような軽率な思想が漏れてしまうのです。同席してたウルグアイ代表は恐らく呆れていたことでしょう。

◆確かに、アルバレス委員長の発言にある「政治が安定したから外資はリスクが少なくなった」というのは、論理展開として間違えないのでしょう。ただし、メルコスール全体に目を向けると、政治の安定だけでは、メルコスール域内で得をするのはブラジルとアルゼンチンといった巨大な市場を持つ国々だけであり、市場の小さな国々はいつまで経っても経済統合が進まないために地域統合の恩恵を受けることはありません。メルコスール総体としてのメリットはないのです。

◆同セミナーの日本人パネリストが「メルコスールを眺める際にはブラジルだけではなく、アルゼンチンも」と言っていましたが、日系企業のビジネスとしては「目先の正解」かもしれませんが、むしろ長期的且つ戦略的な見地に立つのであれば、「メルコスールが経済統合を深化させて文字通りの関税同盟にならない限り、日系企業にとって投資を含めたビジネスチャンスは現状以上に拡大しないのではないでしょうか」とメルコスールの経済統合度の遅さに対して苦言を呈するくらいでないと、日本側によるメルコスールの本質への警鐘として深みが出てこないような気がします。

◆最後にセミナーの場面に戻りますが、日本人聴衆の大半はブラジルとの商いの可能性の観点から見ていたでしょうから、これまで自分が強調したメルコスールの経済統合の進度云々には関心がないのかもしれません。また、そのような関心の低さは、域内貿易比率が20%強という実数を見れば当然と言えるでしょう(EUで60%台、NAFTAで40%台とのこと)。しかしながら、一方のメルコスール関係者は、メルコスールの規模(GDP1.5兆ドル+2.6億人市場)を前面に出して、日本からの投資に期待しているという現実があります。何となく互いに思惑が噛み合わないなかで、言いたい放題な午後だったような気がしました。
[PR]