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ウルグアイとチリの戦略的連携

◆この一ヶ月間、バスケス・ウルグアイ大統領は、4月第2週にチリ、4月第4週から5月第1週にかけてアラブ諸国というように外遊を2度行いました。いずれも企業ミッションを同行させており、前者で50名、後者で20名ほどが集まったとのこと。バスケス大統領が陣頭指揮に立って海外各国への投資誘致及び経済活性化の行脚をおこなっている様子が垣間見えます。今回は前者のチリ訪問をテーマにします。

◆今回、バスケス大統領がチリに訪問する準備は、実は昨年11月下旬あたりから形になってきました。その前捌きを行ったのがアストリ経済財務相。ウルグアイがチリに目を向けた背景には、昨年9月の米国とのFTA協議未遂があります。それまでのバスケス政権の通商政策は、米国一辺倒であり、実質的に通商政策を牛耳っているアストリ大臣を筆頭とした「経済チーム」(共和国大学経済学部出身者を中心とした政府高官グループ。経済財務相の下に経済財務次官、同省マクロ経済顧問、関係局長等が該当します)がバスケス大統領の内諾のもと、ガルガノ外相をはずした形で進められてきました。

◆ところが、バスケス政権内に存在する反米勢力の抵抗によって、政権の二極分化回避を優先したバスケス大統領は米国とのFTA協議を凍結。その結果、米国政府に対して前のめりになって交渉を進めてきた「経済チーム」は梯子を外される結果となりました(この凍結によって、当時下準備を進めていたサラチャガ経済財務省局長は抗議の辞表を叩き付けたりしました)。そして、この政治的な敗北を前にして、「経済チーム」は暫く開店休業の状態になり、バスケス政権は米国一辺倒からの戦略立て直しを迫られました。

◆その戦略立て直しに対する当座の回答がチリとの戦略的連携であり、「経済チーム」の誰の発案かは知る由もありませんが、アストリ経済財務相はチリに訪問をして、前捌きを行ったのです(ご参考まで、ここまでは過去のブログでも触れているはずです)。ただし、このときもアストリ大臣は前のめりの姿勢を崩しておらず、チリとの経済提携の選択肢の一つに二国間FTAを加えていました。その積極姿勢に対して、元来二国間FTAには反対の姿勢を貫いているガルガノ外相は、今年1月にチリを直接訪問して釘を刺すなど、「ポスト米国」においてもバスケス政権閣僚間での鞘当が続いていました。

◆今回のバスケス大統領の訪問を通じて見えてきたことは次のとおりです。(1)ウルグアイとチリ両政府間で経済協定等を3ヶ月間で形にすること、(2)二国間FTAには触れず、チリとメルコスール(南米南部共同市場:ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラが加盟)との関税撤廃時期の前倒しを呼びかける、(3)チリは対太平洋諸国、ウルグアイは対大西洋諸国とのゲートウェーとして戦略的な経済関係を構築すること、等があります。

◆(1)については6つの協定が署名され(9つという報道もありますが)、それを7月までに具現化するのですが、そのベースになっているのが(3)で指摘した南米南部ゲートウェーという新しい発想です。これはどちらかというとバチェレ・チリ大統領(写真左)のアイデアのようで、それにバスケス大統領は彼女のアイデアに乗ったと見られています。ウルグアイの経済財務省内では、これまでに米国の他に中国とインドとのFTAを含めた経済協定の検討をしていますので、アジアへの窓口としてのチリの役割の申し出は有難いものになります。また、報道でもありますように、既に50以上もの国々と二国間FTAを締結しているチリと経済関係を強化することは、メルコスール以外の市場の確保を命題としているバスケス政権に大きなメリットになります。

◆また、(2)については、アストリ経済財務相の過去の発言からはトーンダウンしています。これを見て、ウルグアイがブラジルやアルゼンチンといったメルコスール加盟国に屈したと判断するのは早計でしょう。バスケス政権(具体的には推進役のアストリ経済財務相)は、米国FTA協議未遂という失敗から教訓を学んでいます。それは、名より実をとるということです。米国FTA協議の際には、話だけが先行してしまい、実質的なメリットは省みられることはありませんでした。それ以降のバスケス政権はメディアを踊らせるような真似は慎み、ローキーの中で既成事実を構築していく戦術に変えています。具体的には米国とのTIFA(二国間投資枠組み協定)があります(詳細は別に機会に話すとしましょう)。今回のウルグアイ・チリ首脳会議における声明でも、ブラジルやアルゼンチンが注目しているなかで、彼らに言質を与えないという賢明な判断をしたと理解すべきでしょう。

◆南米の優等生であるチリと、それに次いで(南米諸国の中では)国際的な評価が高いウルグアイが戦略的な提携を結ぼうとする動き。「南米=ブラジル」だけではない新しい視点を持つことがあっても良いのではないでしょうか。