夏のウルグアイ、よもやまばなし

◆ご無沙汰していました。またまた、長いことモンテビデオを離れていました。今回の目的地はアルゼンチンで、イグアス(ブラジルだけではないんです)、メンドーサ、そしてブエノスアイレスと訪れていました。その様子は追って書いていこうと思っています。

◆さて、先日発行された在アルゼンチン日本商工会議所の会報に、ウルグアイの夏の観光地について書いた拙文が掲載されたので、これから3回に分けて紹介します。なお、これはアルゼンチン在住者向けに書いたものなので、少しマニアックな内容になっているかもしれませんが、その点はご容赦ください。

1.はじめに

 ブエノスアイレスの対岸に広がる国、ウルグアイ。ブラジルとアルゼンチンの緩衝地帯として独立を果たしてから170年余り。最近のニュースでも、その小国としての悲哀を味わっているように見受けられます(例えば、アルゼンチンとのセルロース工場建設問題)。

 日本の半分の広さで人口340万人の国に何があるのかについて、対岸から休暇を使って既に訪問された方々が多くいらっしゃることを承知の上、恥の上塗りになるかもしれないことへの観念をしつつ、ウルグアイの夏について少しばかり紹介したいと思います。

2.ウルグアイの夏

 ウルグアイの夏は、普段は対岸を見向きもしないアルゼンチン国民からも、一目置かれるような保養地に変身します。マル・デル・プラタよりも近くに適当な温度の青い海が広がり、アルゼンチン国民(ブエノスアイレス市民でしょうが)にとっては、自らの庭同然に、当国最大のリゾート地プンタデルエステにお金を落としてもらっています。参考までに、ウルグアイにやってくる観光客の実に7割以上がアルゼンチン国民であり、観光産業に携わる人々にとっては、アルゼンチン様々といった感じです。

 昨シーズンからアルゼンチンとウルグアイとを結ぶ国境の橋を結ぶ道路が封鎖されるケースが起き、アルゼンチンからの観光客が減少する「被害」が発生していますが、このことはかなり地元の人々に響いています(本当の理由は、ウルグアイ・ペソ高で、橋の封鎖は二次的との指摘もありますが、それはさておき)。今シーズンも既にグアレグアイチュの環境団体が張り切っているので、昨年同様か、それ以上の影響を与えると見られます。

 先日、当地のレストランのボーイと話をする機会がありましたが、彼らにとっても危機がやってきている様子です。その一番の理由がチップ。ウルグアイ政府は、アルゼンチンの観光客減を、ブラジル観光客の増加で埋め合わせていると喧伝し、メディアもその提灯持ちのような記事を書いていますが、現地で働くボーイによれば、「ブラジル人はチップについてはケチだ」とのこと。確かに、プンタデルエステで一ヶ月ほど「生活する」アルゼンチン人の多くはそれなりの資産を有しているのでしょうし、ポルテーニョ特有の性格から金離れが良いのでしょう。その一方で、ブラジル人は・・・というのがボーイ達の小言のようです。実は、ウルグアイ人はアルゼンチン人を愛している。そんな一面が垣間見えます。

3.プンタデルエステを中心としたリゾート地

 ウルグアイの格好のシーズンは1月、特に前半の15日間です。それを象徴するのが不動産の値段です。12月3日付のオブセルバドール紙にはウルグアイの保養地における住居の貸出価格が報じられていましたが、同記事によれば、1月の貸し出し価格が、プンタデルエステ中心地において、安いところで2,500ドルから最高18,000ドルとのこと。需給の結果からそんな価格が出ているのでしょうから、驚く限りです。このように、プンタデルエステの物件の価格が先進国のリゾート地と遜色のないレベルになり、既に不動産を有している本物の金持ち(主にアルゼンチン人)に純化されていっているのが最近の状況です。

 一方で、既に読者の方々は薄々気付いているでしょうが、ウルグアイ国民の多くはそれほどプンタデルエステを利用しません。タクシーの初乗りがモンテビデオよりもプンタデルエステの方が高く設定されているように、国内で一番物価の高い町で1ヶ月以上も過ごすことを彼らは考えていません。大方のウルグアイ国民が選ぶのは、プンタデルエステ以外の「知られざる場所」であり、本稿では、そのあたりを紹介したいと思っています。

4.まず、プンタデルエステを東に行くと…

 プンタデルエステ以外の場所で保養地を求める場合、プンタデルエステを拠点として、東に進むか、北に向かうかという選択肢があります。

 プンタデルエステから東に40キロほど車で走りますと、ラプラタ河沿いにピリアポリスの町が見えてきます。映画『ウィスキー』の舞台としても使われたアルゼンチン・ホテルが存在感を示す「富豪・ピリアの町」です。読者の一部の方々も、映画『ウィスキー』をご覧になったかと思いますが、同作品は「ウルグアイらしさ」を醸し出している名作です。その中で一番の「ウルグアイらしさ」を表現しているのが、実は主人公たちの旅行先がピリアポリスであったところです。質素な庶民の贅沢の対象はピリアポリスのアルゼンチン・ホテルであって、煌びやかなプンタデルエステのコンラッド・ホテルでもコンドミニアムでもありません。2004年の東京国際映画祭のグランプリを受賞した同作品ですが、その奥に秘められた文脈は意外なほど深かったりします。

 ちなみに、ピリアポリス周辺でも家屋を長期に渡って借りることができます。目の前には青いラプラタ川が既に広がっており、波はまったくありません。落ち着いた雰囲気の中で、何をするわけでもなく、ただただ川面を眺めて、日光浴を楽しむ。余談ですが、この界隈には、バスケス政権の幹部の方々もセカンドハウスを所有しているなど、庶民性を売りにする左派政権ならではの話も聞こえてきます(彼らがプンタデルエステとご縁があるように聞いたことはありません)。

5.それでは、北に行った場合は・・・

 北に針路をとる場合、大西洋の海岸の集落を求めることになります。主な保養地としては、ラ・パロマ、ラ・ペドレラ、カボ・ポロニオ、バリサ、プンタ・ディアブロ等々、ブラジル国境に至るまで白浜の海岸に面した集落が続きます。太平洋岸には、サーファーやヒッピー崩れの若者が多いのが特徴で、特にラ・ペドレラはここ数年における若者のメッカになっている様子です。他にも、砂丘の中の集落であるカボ・ポロニオは、車の乗り入れが原則禁止。そこに至るには、車を乗り捨てて、相乗りのバギーを利用しないといけません。また、同地には乗馬のサービスもあり、広大な砂丘を馬で走らせ、灯台の立つカボ・ポロニオの集落を眺める贅沢を味わうこともできます。ちなみに、欧米系の旅行会社にはウルグアイでの乗馬ツアーが存在するそうで、その中には太平洋岸を馬に乗り続ける一日というのもしっかりと含まれています。

6.そのとき首都のモンテビデオは・・・

 ウルグアイ国民の4割が集中する首都のモンテビデオですが、夏になると、地元の人々は既述の観光地に逃避しますし、日本の旅行ガイドではダウンタウンの地図を義理で掲載しているかの程度です。しかし、この3年間、経済は回復したことで街に活気が戻りつつあり、クルーズ船も年間100隻程度はやってくることから、モンテビデオ自身も観光資源を開発しよう努力が垣間見えます。ここでは、その関連イベントを二つほど紹介します。

 まずは、12月3日に行われた「カンドンベの日」です。2006年から始まったもので、国会議事堂前で、アフリカが由来のウルグアイの黒人音楽であるカンドンベを奏でながら、日中はジャマーダという練り歩きが行われ、夜は国民的な人気歌手ルーベン・ラダのコンサートが開催されました。カンドンベは、ウルグアイ国民の10%に満たない黒人による伝統音楽ですが、国民全体にしっかりと根付いており、5拍子のリズムが青空の下で響き渡ると白人の小さな坊やもステップを踏むなど、非常に微笑ましかったです。

 次は「夜の美術館」です。12月7日に開催されました。夕暮れ時の20時からダウンタウンに散らばる美術館や宮殿が一般開放され、多くの市民が集まりました。美術館の中庭や宮殿の広間では相次いで音楽会が開かれ、世界的にも有名なウルグアイ人音楽家が気さくに登場していました。著名人と庶民との間の敷居の低さはウルグアイの美徳です。そして、もう一つの特徴は、これらイベントが無料であることで、本当は娯楽に飢えているモンテビデオ市民をここまで動員させることに結びついています。

 他にも、知られていませんが、期間の長さにおいて、世界で一番長いカーニバルはモンテビデオで開催されています。その期間、およそ一ヶ月。その間は「夏の劇場(Teatro de Verano)」でほぼ毎晩カンドンベやムルガのコンテストが行われます。贔屓のグループなどが登場するときにはチケットの購入が難しくなりますが、普段はそれほど混みません。それも、ウルグアイの特徴かもしれません。

7.おわりに

 ウルグアイでの生活を通じて見えてくるのは、面白い魅力がたくさん潜んでいることです。それらがなかなか外部には伝わらないのですが、それが単に当事者のPRが下手なのか、意図的に隠しているのか、はたまた面倒くさがりなのか。いずれにしても、住めば都とはこのことで、今年もウルグアイの夏を満喫させてもらっています。読者のみなさまも、息抜きとして、この夏、ラプラタ川を越えてみるのは如何でしょうか。

[PR]