人気ブログランキング | 話題のタグを見る

見透かされる

◆ウルグアイは暑い日々が続いています。クーラーもかけずに職場で机に向かっているとじんわりと汗が滲み出てくるような季節になってきました。自宅で拙文を書くような日暮れ以降(21時以降)になりますと、少し涼しい風が吹き始めます。これが日本の夏の熱帯夜との違いなのかもしれません。お陰でウルグアイの3年間、自宅にクーラーがなくても過ごせています。

◆今朝、職場まで運転するラジオから聞こえてきたのは、セルロース工場建設問題における主役の一方であるENCE社のお話。9月下旬に当初の工場建設計画を断念し、それ以降ウルグアイ国内の新たな建設場所を模索しているなか、景気のよい話が同社からは聞こえてきませんでした。何よりも同社の新社長がアルゼンチン政府べったりとの報道が計画見直し発表以降から流れ続けており、ウルグアイ政府にとっては喉から手が出るほど欲しがっている外資による大型投資案件ではあるのですが、どうしても信頼に足る存在ではなくなっているというのが率直な国民感情になっています。

◆そんな折に、新社長(アレギ氏)がのこのこ登場したのは、アルゼンチンの大統領府(カサ・ロサーダ)。アレギ社長に同席しているのはフェルナンデス・アルゼンチン首相。そして、そこで行われた記者会見のテーマは、ENCE社のウルグアイでの新しいセルロース工場建設場所の発表でした。当初計画から倍の生産量を計画し、投資総額は12.5億ドル。2009年から操業を開始し、生産に必要な一次産品となる木材は一部アルゼンチンから輸入するといった内容でした。その記者会見の前にはキルチネル・アルゼンチン大統領にも表敬訪問したとのことで、ENCE社としてはそこで最終了解をもらったのでしょう。

◆これはウルグアイ政府にとっては屈辱的な一幕となりました。ウルグアイの投資案件の最終的な了解を取る先がアルゼンチンの大統領であることを国際社会に披露したわけで、きっと昨晩はキルチネル大統領周辺は非常に胸のすいた思いをしたと察します。ウルグアイ政府と心中しているもう一方のセルロース工場建設主体のBOTNIA社は、相変わらずアルゼンチン政府の脅しにあっています。国際司法裁判所の裁判は引き続き行われており、世銀から融資を引き出したものの、ウルグアイとアルゼンチン両国の対立を前に振り回される結果に陥っています。

◆同じ欧州勢の投資案件ですが、両者の採っている選択は大きく異なっています。9月の時点ではENCE社はウルグアイとアルゼンチンの二国間(又は多国間)外交に振り回された敗者の烙印を押されていましたが、今日の時点を切り出してみると、見方は大きく変わります。ENCE社の新しい計画地(プンタ・ペレイラ)はラプラタ川沿いであり、ウルグアイ政府として改めてアルゼンチン政府に環境審査等で「お伺い」を立てる必要はありません。ENCE社にとっての「仕切り直し」は首尾よくいったと見られます。

◆先述のとおり、外資による投資に反対する理由のないウルグアイ政府として、ENCE社の動きに苦虫を噛み潰しながらも、案件の実現のために動くことでしょう(ENCE社からウルグアイ政府への正式な説明は本日午後にありました)。ENCE社は外交の枠を超えたなかで、誰と仲良くすることがビジネスにとって一番望ましいか分かっていたのかもしれません。そして、その観点からすると、ウルグアイ政府は随分と見透かされた扱いを受けることになりました。