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一件落着

◆7日、ドミニカ共和国の首都サント・ドミンゴで開催された第20回リオ・グループ首脳会議では、1日に起きたコロンビアによるエクアドル領土内おけるゲリラ(FARC)掃討行為について議論されました。「ここ10年間のラテンアメリカにおける最も深刻な外交問題」と報じるメディアもある中で、果たしてどのような展開になるのか注目を集めていました。会議の結論として、ウリベ・コロンビア大統領は越境行為につきエクアドル政府に対して謝罪をし、今後FARCを攻撃する際において越境を行わないことでひとまずの決着を見ました。

◆まず、ラテンアメリカの首脳もメディアも含めて、今回の首脳会議で問題が終結するとは思っていませんでした。先日もお知らせしたとおり、当事者も周辺諸国も問題解決までの一番の山場は17日の米州機構外相会議あたりになるだろうという見通しの下で動いている節がありました。実際、7日の会議ではエクアドルとコロンビアの両首脳が席上で激しく互いを非難していました。当事者両国がラテンアメリカ諸国に対して説得を試みた内容は、エクアドル側が今回のコロンビアが行為が非難に値する点であり、コロンビア側は同行為に至らしめた過去40年間続く内戦への理解を求める点でした。

◆コロンビアは1日の掃討作戦の際に押収した資料の中からFARCが先のエクアドル大統領選でFARCがコレア大統領を支持したとするものがあり、そのような関係が見られていた中で、たとえば事前にコレア大統領に通知していた場合、作戦そのものが成功しなかっただろうと述べていました。コロンビアの作戦は、自らの行為がFARC撲滅(内戦の勝利)という大義のもとであれば容認されるものであり、世界中で展開されている「テロとの戦い」の一環であるという立場を改めて述べたものでした。

◆エクアドルは、FARCとの関係を全面的に否定するとともに、FARCのエクアドル越境等を指して、エクアドルがコロンビアで展開されている内戦の被害者であると述べています。つまり、ゲリラ(コロンビアでいうところの「テロリスト」)を入国させるようなリスクを敢えてとるような国がどこにあるという論理です。また、コレア大統領はウリベ大統領からのテロ掃討作戦の報告を受けた際、「エクアドル国境沿いのコロンビア国内」との説明をしており、そのような不誠実さを指して「嘘吐き」と公然と批判しました。

◆このような両者が正面から衝突するような事態に際して、動いたのが幹事国であるドミニカのフェルナンデス大統領と、いつものようにチャベス・ベネズエラ大統領です。後者については、ここまでマッチポンプ役を徹すると、呆れるよりも一つの才能であるとそれなりに評価しないといけないのかなと思ってしまいます。そして、最終的に出来上がったのが第20回リオ・グループ首脳会議宣言になります。

◆その宣言の中身が冒頭に書いたウリベ大統領の謝罪と今後越境軍事行為を行わないとする確認です。会議の中でコレア大統領は「今回の問題の唯一の根源はウリベ大統領にある」と発言していますが、コロンビア政府がその認識を認める結果となりました。個人的には過去のブログでそれが解決方法と示唆してきましたしたので当然であると思っています。一方で、コロンビアの面子を保つ意味からも、合意書ではコロンビア政府が指摘するコレア大統領とFARCの関係性についてエクアドルの司法が手続きをとることも約しています。どこまでの拘束力があるかは知りませんが、コロンビアとしても手ぶらでは帰れないので、一定の配慮が働いたと見ています。

◆これで、ひとまず「危機」は去ったことになりますが、当事者のアンデス山脈3カ国(ベネズエラ、コロンビア、エクアドル)がそれぞれ得して終えることになりました。まず、ベネズエラはコロンビアを批判をしつつ、FARCとの和平の有力な仲介役になり得ることを再確認し、更に最後は調停役とした超然とした役割を担うことが出来ることを内外にアピールできました。要はマッチポンプなのですが、この政治的な立ち回りは大したものです。

◆次に、コロンビア。収穫はFARCのナンバー2を殺害することができたということでしょう。彼らの誤算は、彼らにとっての「些細な」越境がラテンアメリカ全体の問題に波及したことでした。そして、7日の会議によって、問題が拡散することを止めたことも懸命な判断となるでしょう。報道によると、新たにFARCの幹部7人衆のもう1名が殺害されたと伝えられており、FARCそのものが不安定化しているのではないと見る向きもあります。

◆最後に、エクアドル。これは、コレア大統領のリーダーシップをアピールする格好の機会となりました。危機を好機に変える成功例と見ることができます。今回のコロンビア越境問題を契機とした危機を前にして、迅速に国交を断絶するとともに、南米各国に自国の立場を理解を獲得することに成功。更にコロンビアから謝罪を勝ち取ることに成功しました。リオ・グループ首脳会議開始前の支持率は80%に上昇したと報じられており、今後の政治活動に大きく資することになるでしょう。どの国もただでは転ばないとは、なんとも政治の真髄を見るような気がします。