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エクアドル大統領選・決選投票

◆11月26日はエクアドル大統領選挙の決選投票日。あと数時間で結果が判明します。その前に、決選投票までの選挙戦のお浚いをしておこうと思っています。

◆まず、毎度お世話になっているCedatos-Gallap社の世論調査動向を見ていきますと、面白い展開になっています。第1回目投票で第1位だったノボア候補(バナナ富豪)は、対立候補であるコレア候補(左派の元経済学者)に対して終始有利な展開を進めていましたが、終盤になって大幅に失速しています。そして、とうとう11月25日発表分では、ノボア候補46%対コレア候補54%とノボア候補は8%の差をつけられています。

◆これは、第1回投票時において決選投票でも勝利が優勢と見られていたノボア候補にとっては想定していなかった展開だと思われます。なかでも10月30日時点には18%の差(59%対41%)を広げていました。その後の1ヶ月弱でノボア候補↓13%、コレア候補↑13%が起きた変化は、エクアドル国内に何かが起きたのではと思いたくなるほどです。

◆今回の決選投票において、欧米を含めたメディアは、「エクアドルの大金持ち」対「チャベス大統領の一味」という分かりやすいネーミングによって話を進めてきた部分があります。そして、その影響は、これまでの南米の左傾化の傾向に少なからず影響を与えるといいたいのかもしれません。したがって、決選投票でコレア候補が勝てば、「南米の左傾化の影響、そして加速」というのかもしれませんが、それはどうでしょうか。国の頭領を選ぶのにイデオロギーだけで動くような大陸ではないことは既に過去40年間程度だけの歴史を見ていれば分かることだと思われます。候補者のキャラクターにかかっている部分が多いのです。

◆今回のノボア候補とコレア候補の選択において、有権者の多くは、自らが持ち合わせている思想・信条よりも、今後の自らの生活にとって「マシ」であれば良いという計算が働いているかと思われます。つまり、積極的な支持による投票行動から成り立っていません(そもそも、エクアドル国民は政治を信用していませんので)。そのような国において参考になる指標として、先の世論調査会社が発表していますが、「この候補には絶対投票しない」という設問では次のような回答が出ています(数字は、10月22日、30日、11月14日、23日の順)。

ノボア候補: 32%→30%→35%→40%
コレア候補: 44%→43%→35%→35%
両候補: 10%→10%→14%→11%
わからない: 14%→17%→15%→14%

◆互いにキャラクターの濃い候補なのですが、その中でノボア候補から「チャベスやカストロの友達」や「共産主義者」とレッテルを貼られ続けたコレア候補は、着々と「不支持」率を減らしてきました。時間が解決するわけではないのでしょうが、一本調子のコレア候補批判に有権者が飽きをきたした部分があるのではないかと見ています。また、このような左派に対するネガティブ・キャンペーンというのは、民政化以降ずっと続けられてきましたが、有権者がそれに従ったことで国が良くなったわけではないので、ノボア候補が「既得権層のお仲間」と見られた部分も多いかと思います。

◆また、今回の決選投票における戦いでは、ノボア候補の慢心が目立ったのではないかと見ています。これまでのエクアドル大統領選挙の伝統を踏襲しているように、今回も地域間の対立がありました。具体的には、コスタ(海岸)地域の支持が高いノボア候補とシエラ(山地)地域の支持が高いコレア候補です。決選投票に向けては、この地盤の更に強固にすること、そして、他陣営に切り込むことが求められていました。

◆ノボア候補に対する世論調査を見る限り、彼はアウェーであるシエラ地域だけではなく、地盤のコスタ地域でも不支持率を伸ばす結果になっています(シエラ地域:37%→51%、コスタ地域:25%→31%)。また、支持については、コスタ地域71%→60%、シエラ地域45%→33%と負け戦を行っています。

◆地域間の代理人対決になった今回の大統領選挙ですが、実はシエラ地域で支持の高いコレア候補はコスタ地域の出身。実はコスタ地域の人々にとって、コレア候補はそれほどの地域主義の立場からしてアレルギーはなかったということができます。その一方で、コスタ地域の代表的な産品のバナナが前面に出るようなノボア候補こそ、シエラ地域の切り込みを図る必要がありました。シエラの人間の心情からすると、コスタの人間を投票するには心の中に大きなハードルが存在します。コレア候補がシエラの「鎧」を着て戦ってきたことはノボア候補との対決によって大きな効果を発揮する結果になりました。

◆3回目の大統領選挙の挑戦となっているノボア候補が未だ投票を決めていない層(16%)を取り込むことができるのかが鍵でしょうが、難しいでしょう。また、個人的にはコレア候補がここまで支持を伸ばしてきたのは驚きですが、長い選挙戦を通じて、「今回は彼に試してみてもいいのかな」というちょっとした「賭け心」が生まれつつあるのも事実です。成功しないのは分かっているのですが、そうやって少しでも投票を通じて夢を買っているのかもしれません。南米の庶民に広がる宝くじ(ロト)のようなものです。当然、この心情はノボア候補支持の投票者も持ち合わせているものです。