カテゴリ:アルゼンチンのお話( 24 )

アルゼンチン政府が2月からほぼすべての製品の輸入に対して事前の申告を求めることを発表しました。関連記事はこのリンクから全文が読めます。

フェルナンデス大統領の再選直前までには、第2次政権では何か開放的なことをするかもしれないという仄かな期待がありましたが、これでなくなりましたね。

この背景には貿易収支が減り続けていることへの政府の危機感があるようですが、このようなことで減っても長続きしそうにない印象を受けますし、もっと他のことへの歪みが生じそうな気がします。
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2011年のアルゼンチンの自動車生産台数が82万台と発表されました。関連記事はこのリンクから冒頭部分のみ読めます。

この数字は過去最高を記録しているので、それだけを拾えばいい話ですが、年後半から伸びが抑えられている点は気になる点です。

アルゼンチンで生産される自動車の半分近くはブラジル向けの輸出です。つまり、ブラジル市場が縮小すれば、当然アルゼンチンにも影響するというわけです。年後半のブラジルの自動車市場の冷え込みがここにまで影響しています。
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2012年のアルゼンチンの経済見通しですが、5%台と言われています。関連記事はこのリンクから冒頭部分のみ読めます。

2003年以降、キルチネル前政権で高成長を甘受してきたアルゼンチン。世界金融危機の煽りを受けた2009年を例外として、2011年も好調でした。

ただ、ピークはやはり過ぎたかなといった印象を受けます。どこまでも国内市場に依存できないでしょうし、頼りのブラジル市場もブラジルが2011年の第4四半期からピークを越えたかなという印象を与えています。
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◆10月27日の朝7時過ぎ、出張先のブエノスアイレスのホテルからタクシーで国際空港に向かっていました。カサ・ロサーダと呼ばれる大統領官邸の横を通り過ぎましたが、官邸前の5月広場は閑散としていて、走っている車は乗っているタクシー程度。そんな中、突然に黒い犬がタクシーに飛び込んできて、危うく轢かれそうになっていました。朝から不吉なことが起きるものだ心の中で呟き、いつもの習慣のように運転方向の右手前に見えるメトロポリタン大聖堂に向かって十字架を切りました。その数時間後、この一帯は全く様相が変わりました。

◆同日の9時過ぎに、その瞬間までアルゼンチンで最も権力を有していたと思われる人物が同国南部の観光地カラファテの地で亡くなりました。ネストル・キルチネル。アルゼンチン前大統領です。彼の訃報が流れるとともに、その日は10年に一度の国勢調査の日で祝日になっていたこともありましたが、5月広場に誰ともなく人々が集まって来ました。広場周辺はアルゼンチンの国旗を背中にまとったり、キルチネル前大統領の称賛や別れのメッセージが書かれた手書きのボードを持った市民の姿。その光景が全国のテレビに延々流れることで、まさに前日までは「反キルチネル」機運も流れてた国内の空気は、一転彼を聖人まで昇華させているかのようでした(ご推察のとおり、ここに集まった人々の素性及び動機は、テレビが祀り上げるほど純粋なものではないとの話もあります)。

◆さて、アルゼンチン南部の州知事に過ぎなかったキルチネル氏が03年に大統領に就任してから、アルゼンチンはキルチネル時代が始まりました。01年末の経済危機によって財政が破たんし、社会不安が高まり、02年にはマイナス10%を記録するなど、アルゼンチンはどん底まで落ちたと言われました。キルチネル前大統領は、同国の権威の立て直しのため、何よりも国民生活の向上を優先させ、そのツケは時に海外の投資家や企業に負担させてまでも遂行させてきました。キルチネル時代を通じて、同国が得意とする食糧などの一次産品が高騰し、輸出先の経済が好調であることで、この国はかつてない継続的な好況を迎えることになりました。また、キルチネル時代は、07年に妻が大統領選に勝利したことで引き続き、また来年の大統領選ではキルチネル氏が有力候補であることが大方の見方でした。

◆特に今年に入ってからは、11年10月の大統領選のキルチネル派の勝利が現政権最大の焦点になったかのような政策が続いてきました。年初あたりには、ポピュリズム的なバラマキ政策ではきっと途中で財政が破たんすると思われていましたが、ブラジルや中国が好況であることによって輸出が好調で、外貨準備高も最近では500億ドルを超えるなど、最近では年初の心配材料はなくなったかのような状況になってきました。ただし、現政権では外貨が逃避しないような施策をパッチワークのように相次いで作っており、これらが企業活動の足枷になっていることも事実です。

◆更にキルチネル時代の特徴は、巨大な集票マシーンと目される労働者や低所得者層を抱える労働組合との蜜月であり、経済及び社会政策では労働者層に偏重するような動きが続いており、これも国内外の企業にとってはアルゼンチンに対するマイナスイメージを払拭できない理由の一つになっています。毎年平均して25%程度の給料アップはアルゼンチンのお家芸になっていたところ、今年に入って、このインフレの加速が家電や自動車といった耐久消費財の消費の喚起を招くという皮肉な結果をもたらせています。ただし、これも需要の先食いではないかということで、いつ息切れするかが関心事項にもなっています。

◆以上のようなアルゼンチンの風景をキルチネル前大統領は03年から描いてきたことになります。この21世紀最初の10年間のアルゼンチン政界を代表する人物が亡くなったことで、間違いなく、アルゼンチンは次のフェーズに移らざるを得なくなりました。恐らく次期大統領選までは過渡期ではないかとみています。これから大統領選までの1年間の間に相当な政治闘争があると思われます。

◆一番最初に注目されるのは、フェルナンデス大統領とその取り巻きによって構成されるスモール・サークルがどのような動きをするかにあります。これが果たして次の大統領選に向けて一致結束できるのか、それともこの小さな利権配分共同体はキルチネル前大統領という強力な箍(たが)があったから保つことができたのか。これは実は様々な憶測が既に出ていますが、ある程度見えてくるには数週間かかるのではないでしょうか。

◆次は、フェルナンデス大統領がその利益配分共同体を維持させるために、自らがどのように動くかがポイントになります。つまり、最大の相談相手だった旦那がいなくなった中で、誰に相談しながら政策運営を進めていくかということです。基本的に彼女は優秀な人物ではあるので(優秀な人物と優秀な政治家とは必ずしも一致しませんが)、背中を最後に押す人物が欲しいのでしょうが、それが来年度の選挙を計算した政治的思惑に引きずられて労働者層(具体的にはリーダー格であるCGTのモジャーノ書記長)への偏重を続けることになるのかどうかでしょう。また、産業界とも折り合うような穏健路線を目指した場合、彼女の右腕になるのが誰なのか。現在のスモール・サークルの中のデビード公共事業省なのか(最近不仲説が出ていますが)、それとも少し範囲を広げて探しだすのかがポイントになるでしょう。

◆いずれの場合においても、アルゼンチンに問われているのは、これから大統領選挙までの1年間という非常に短い間に、次の10年間を構想することの出来る政治家が輩出され、更に国民の支持を得ることができるのかということです。既存の集票マシーンを頼りに労働者層を意識した政治権力を獲得するポピュリズム的なスタイルというのは、途中若干の中断はありましたが、1940年代のペロン元大統領から生き続けるアルゼンチンのDNAだと思っています。これが簡単に払拭されるとも考えづらい一方で、今後10年間そのDNAに依存することがアルゼンチンの発展のためになるとも考えづらい。その辺りをアルゼンチン国民がどのように考えるかということだと思います。
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◆11日から15日にかけてアルゼンチンのフェルナンデス大統領が中国を訪問しています。企業家約70名や関係閣僚4名を連れての大型ミッション。さすが派手なことが好きなアルゼンチンと再認識します。このフェルナンデス大統領、本来なら1月に訪中していたはずなのですが、国内問題でアルゼンチンを離れることができないとドタキャンをしてしまいました。当然中国政府からすると、胡錦濤総書記との会談日程まで入れていたわけで、中国人にとっては三度の飯よりも大切なメンツを潰されました。

◆それからの中国の報復措置はなかなかなもので、アルゼンチン産大豆油の輸入を衛生上の理由から禁止しました。アルゼンチンからすると、09年の大豆油輸出全体の7割以上が中国向けで、その年で40億ドル相当稼いでいた金の卵。また、アルゼンチンからの輸出には35%の輸出税がかかっているはずなので、早急に解決したいと思っています。今回の訪中の大きな目的の一つは、この大豆油問題を解決することでした。

◆そして、わざわざ大統領が訪中するに至ったもう一つの理由は、あまり報道されていませんが、中国マネーをアルゼンチンに流し込むためです。アルゼンチン経済が回復基調を続けるなかで、インフラがかなり貧弱であることを現政権は痛感しています。肝心の先進国はアルゼンチンがパリクラブでの債務返済を進展させないために融資を再開させていません。現政権としては、少なくとも大統領選挙のある来年10月までは資金不足に陥りたくないなかで、中国にパトロンになってもらいたいとの期待があるようです。

◆一方の中国にとっては、先進国が躊躇するような市場を攻めたいわけで、資源と食糧に恵まれているアルゼンチンに投資することはお得だと思っている節があります。既に今年3月には中国海洋石油がアルゼンチン石油企業に投資を行っていますし、今回は鉄道分野への投資を約束しました。04年にも中国政府による南米諸国への大掛かりな投資のお約束攻勢がありましたが、当時は狼少年で終わっています。今回はその時の反省があると思いますので、本格的な進出になるのではと見ています。

◆フェルナンデス大統領にとっては、そのような現政権の生命線にかかる2つの大きなテーマを解決するために中国に向かいました。そして、首脳会談の冒頭において、1月のドタキャンを「公式に」謝罪しました。プライドの高いアルゼンチン人のトップがそのようなことをしたということは、如何に今回の訪中が大事だったかが分ります。

◆ちなみに、大豆油については失敗。中国政府に足元を見られました。中国の外務報道官からは「相互の今後の成り行きが解決策を見出すだろう」といった禅問答が聞かれました。そして、中国マネーに関しては、幾つものプロジェクトが署名されました。これでアルゼンチン政府が回さなくてはならなかった資金に余裕ができたかもしれません。フェルナンデス大統領は「現時点では満足を上回る結果」といって、上海の博覧会に向かいました。

◆最後に余談ですが、大統領の訪中初日の11日は、ワールドカップの決勝戦。誰が日程設定したのか知りませんが、もしアルゼンチンが決勝戦まで行っていたらどうしていたんでしょうね。もう一度ドタキャンをしていたんでしょうか。この日程、中国側からの提案だったとしたら、その狡猾さは大したものです。
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◆前回、アルゼンチンの国営航空会社であるAerolineas Argentinas(アルゼンチン航空、以下AR)を取り上げましたが、その際に、帰路が心配と書きました。というのも、この航空会社は定時に運行される方が珍しいぐらいで、フライト前日の夜に日系企業の方々とお会いした際にも「よく乗るねぇ」と呆れられる始末。定時に飛んでもらうためには、十字を切るしかありませんでした。

◆サンパウロ便(AR1244)の出発時刻は17時15分。2時間前に空港(Aeroparque)に到着するため、町中でタクシーを拾って、運転手に行き先を告げました。運転手からは「何に乗るんだい」という質問。「ARだ」と答えると、「災難だねぇ。今さっき乗せたお客さんの便は2時間遅れだったよ。Aeroparqueで荷物運搬の組合がストをやっているよ」との説明。予想通りの展開とは思いましたが、国際線は別ではないかと甘い期待を抱いていました。

◆空港に着くと、チェックイン・カウンターは黒山の人だかり。放送メディアや通信社が数社やってきて、カウンターに並ぶ人々を撮影しています。チェックインをすると、「飛行機は2時間遅れなので、ご了承ください」との宣告。この時点では、2時間程度であれば、W杯のTV観戦で時間を潰せばいいという軽い気持ちでした。

◆19時15分発と刻まれたチケットを手に、搭乗口で待ちました。同じ国際線では、他の航空会社(ウルグアイのナショナルフラッグであるPluna航空)のモンテビデオ行きやリゾート地(といっても今は季節外れですが)のプンタデルエステ行きの搭乗案内のアナウンスが流れる中、サンパウロ便を待っているであろう客の苛立ちが次第に高まっていきました。

◆19時過ぎに変化がありました。フライト掲示板にあったサンパウロ便(AR1244)の表示が消えたのです。思わず辺りから「オォー」という呻きにも似た低い音が鳴り響きました。乗客の数人が慌てて搭乗口や待合室にいるはずのAR社員を探すのですが、その時に限って一人もいません。AR社員個々人の危機管理能力の高さには恐れ入りました。

◆仕方ないので、うろうろしていると、ウルグアイに住む知人S氏と3年ぶりに再会。彼は17:00発のARのモンテビデオ便に乗るはずだったところ、フライトは20:30まで遅れているとのこと。「久しぶりに飛行機を使って早く帰ろうと思ったのに、ARにしたのが間違いだった」と苦笑いしていました。彼によれば、往路のブエノス便(ボーイング737)の乗客は彼を入れても5名だけ。民間企業だったら飛ばさないレベル。改めてARのすごさを知りました。

◆もはや案内掲示板にも存在しなくなったAR1244便。乗客と思われる人々の怒りは次第に大きくなり、最後には、乗客が搭乗案内のマイクを使ってAR社員を呼び出したり、手拍子を合わせて抗議に出たりしていました。そういった抗議行動をするのはアルゼンチンの乗客の方で、ブラジル人は半ば諦めたように構えていました。もはや誰も収拾能力を持ち合わせていないという状況になりました。

◆結局フライトはキャンセルにはならず、21時過ぎの出発になりました。チケットを切ってもらった乗客は、まるで何かを成し遂げたようにガッツポーズをする顛末。飛行機が定時に飛ぶという「当たり前のこと」が如何に当たり前ではないかを再認識させられました。

◆ちなみに、この日の荷物運搬の組合によるストでは、15本程度のキャンセルが発生したとの報道がありました。組合のストなので、ARの責任ではないとも言えるでしょうが、実際キャンセルが発生した殆どの便がARでした。そんな折、ARでは新しいデザインを発表したとのこと。個人的には、同社の問題解決はそのような目先の話ではないような気がします。
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◆今日の昼は、アルゼンチンに20年以上在住されている方と食事をしていました。その中で、「アルゼンチンの公共放送(7チャンネル)面白いよ。夜の9時から始まる『6・7・8』を見てみたらいいよ」との仰ったので、今日は、それを見ながら、このブログを書き始めています。

◆アルゼンチンの公共放送に注目するのは、今朝のアルゼンチン主要紙の一面に取り扱われていた「メディア法施行差し止めの却下」とも多少なりとも関連するためです。アルゼンチンでは、ここ1年近くにわたって、テレビ・ラジオ放送の憲法ともいえる「視聴覚メディア法」の改正について議論されてきました。ポイントは幾つかありますが、(1)最近の通信放送の技術の進歩に現存するルールが適していない、(2)そのルール改正によって既得権を有するメディア各社にとっては不利益を被る、(3)ルール改正を進めるのがフェルナンデス大統領一派であることが胡散臭さを醸し出している、といったところが関係してきます。

◆アルゼンチン国民の間では、この(1)から(3)のどのポイントに重点を置くかによって、この法案の改正への評価が全く異なります。まず、(1)を重視する方々にとっては、この改正は技術的な話であり、例えば、地デジの新方式(日本方式)の導入によって、これまでの放送業界の秩序が大きく変化する可能性を秘めています。アルゼンチンのメディアで流れていることをどこまで信用すべきであるかについては、ウルグアイから彼の国をウォッチしていた頃から悩ましいと思っていました。これまでのメディアに懐疑的であったり、(1)を重視する人々にとっては、この新技術の導入とそれに伴う法改正は「情報の民主化」と好意的に見ます。

◆ところが、(2)や(3)に重点を置く人々にとっては、権力者が自らに有利な秩序を築いているものだと批判をしています。ましてや、フェルナンデス大統領と当地のメディア・コングロマリットである「クラリン」が2008年以降、決定的な対立関係に陥ってからは、今回のメディア法改正の動きを「クラリン潰し」の一環と見なされていますし、「視聴覚メディア法」そのものについても「『K』メディア法」と呼ばれています(「K」はフェルナンデス大統領とその夫である前大統領の苗字である「Kirchner(キルチネル)」を指します)。今回のメディア法の成立に際して、「K」側が支持を得るために懐柔を図って、それが効を奏したことが更に(3)のイメージを高めています。

◆前置きが長くなりましたが、この「メディア法」、アルゼンチン国内の連邦を含む複数の裁判所で、違憲であるとの訴えが出ており、これまで一部条項や法律全体の施行差し止めの判決が出ています。その中で、昨日、メンドサ州の連邦裁判所で訴えられていた法律全体の施行差し止め判決が却下されました。新聞紙面では「歴史的な判決」ということで大きな取り扱いをされています。実は、法律全体が施行されないと、地デジの日本方式の本格普及が進まない事情があったりします。

◆しかしながら、日本方式の地デジ放送は開始されていないかというと、冒頭に述べた公共放送(7チャンネル)では開始されています。この公共放送では、11日から始まったワールドカップの地上波の放送を独占しており(※「独占」ではありませんでした。ごめんなさい。100617追記)、ほぼ一日中サッカーの試合とそれら結果のハイライト番組の放送を繰り返しています。また、地デジ放送開始に当たっては、普通のテレビを地デジに対応させるための小型のセット・トップ・ボックス(信号交換器)を25万台ほど政府主導で無償配布をしています。こうした新しい秩序構築に向けた政府の動きを行っているのがフェルナンデス大統領(及び「K」前大統領)であるために、政治的な計算高い動きとして、胡散臭さが引き立つことになっています。

◆ただ、以上の「K」夫妻による政治的な動きを抜きにすると、「7チャンネル」の公共放送としての質は保証されているのではないかと思います。冒頭に触れた「6・7・8」では、アップデートな話題を取り扱う番組コンセプトのため、まさに「メディア法」の話を6名の識者を通じて両論併記で議論していますし(「6・7・8」の意味は、「6人の識者が7チャンネルで夜8時(今は9時)から議論する」ということだそうです)、番組の見せ方でも、チャンネル7の社長が映画監督であるためか、視覚を意識した作りになっていると見受けられます。

◆最後に、政治と公共放送の立ち位置について、実は日本に一日の長があると思われます。NHKに言いたいことがある日本の国民もいるかもしれませんが、そこに蓄積されたノウハウ(成功も失敗も)については、海外でも知るに値するものではないかと思っています。南米などの国では、どうしても公共放送は時の権力者の玩具になりかねないリスクがあるのも事実です(アルゼンチンではそれがテーマになっていますし)。また一部の南米諸国では、公共放送の重要性を認識したことによって日本方式に関心を寄せた国もあるわけで、その辺りを意識した日本発の貢献方法もあるように思われます。
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◆現在、アルゼンチン・ブエノスアイレスに出張中。これから業務でお世話になる方々への挨拶まわりなど、数日過ごします。それにしても、行くたびに勉強になります。ブラジルという遠隔地からアルゼンチンを眺めてばかりですが、現地に行かないと分からないことばかりです。

◆サンパウロからブエノスアイレスに向かったのですが、今回はアルゼンチンの国営航空会社である「アルゼンチン航空(AG)」を使いました。この2時間半の路線を取り扱っている航空会社ですが、ブラジルのTAM、GOL、そしてAGがあり、そのほかにLan ChileやBritish Airways(BA)などがあります。前回はTAM(最近全日空とのコードシェアで日本・ブラジル間の共同運航を開始することを発表しましたが)を使いましたが、今回AGにした理由は、AGの場合、ブエノスアイレス到着が市街地から10分ほどの通称「アエロパルケ」(国内空港)に到着するメリットがあるためです。他の航空会社ですと、到着が市街地から40分程度かかる場所にある国際空港の「エセイサ」空港になります。

◆0700発のAG便に乗りましたが、驚かされたのは、その乗客数です。前回、同じ時間帯に出発するTAM便(0645発)はほぼ満席だったのですが、今回のAGの搭乗率は恐らく2~3割といったところ。席は選びたい放題で、空いているときによくやる「3席占領して、横に寝る」という乗客の光景が至るところで見られました。機体も古く、座席に画面はありませんし、音楽を聴いている乗客もいたのかどうか。この差はいったい何なんだろうと思いました(朝食の貧相さは互いに譲っていませんでしたが)。

◆昼食会の席で隣の方に、「AGも厳しいようですね」とその様子を織り交ぜて話したところ、その方からは「厳しいなんてものではありません。潰れていますよ」と返ってきました。話によると、AGの毎日の赤字額は100万ドルから150万ドルあたりになっているとのこと。さらに、隣に座っていた別の方からは、「先日地方に出張しましたが、AGから『往路は次の便に乗られるようにお願いします。復路は1時間半前の便に乗られるようお願いします』と言われました。後ろの便への変更は分かりますが、前の便に乗ってくださいというのはどういうことですかね」とのコメント。そうすると、「いや、私もそれは聞いたことがあります」と続き、気が付けばAG話に花が咲いていました。

◆改めて報道を確認しますと、AGの赤字額は、2008年に10.62億ドルだったのが、2009年には23億ドルに増加。2008年7月に国有化してから赤字額はうなぎ上りになっています。国有化以前が9億ドルの赤字だったことを考えますと、国有化は失敗であり、「ブラジルのヴァリグ航空の二の舞」のような末期的な状況になっている様子です。国が面倒を見ている限り、倒産はないのでしょうが、どこまで国税をつぎ込むのか。景気が回復基調にあるアルゼンチンではまだ目立たないことかもしれませんが、今後の財政だけではなく、政治的なインパクトからも無視できない事象ではないかと思いました。

◆そんな中、数日後に、今後は復路に乗るわけですが、もしかすると飛行機の遅れは覚悟した方がよいかもしれません。遅まきながら、ウルグアイ駐在時代に、AGには度々飛行機の遅延で泣かされていたことを思い出しました。
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◆ブラジル・サンパウロに生活していますが、アルゼンチンに出張する機会が増えそうで、来月も最低2回は行く予定です。そんなこともあって、色々なアルゼンチン経済のニュースを追っかけています。最近、気になったのは、こちらの記事。
・Argentina moves to protect food production (Financial Times)
・食品の輸入制限制度導入の動き (ジェトロ通商弘報)

◆概要を述べますと、5月6日にアルゼンチンのモレノ国内商業庁長官が国内のスーパーマーケット・チェーン関係者に対して、6月1日からアルゼンチン製品で代替できる食料品の輸入は制限するという声明を出しました。その後から、関係者の間に混乱が生じているという話です。

◆とにかく、この話、不透明なことばかりです。例えば、(1)一体食料品の何が制限の対象なのかがわからない、(2)モレノ長官は何の権限でこの声明を表明したのかがわからない(彼は貿易の所管ではない)、(3)この「声明」の根拠となる政令や法律ができるのかもわからない、などがあります。

◆また、「わからないことだらけ」の極めつけは、このタイミングです。5月17日からEUとメルコスールの経済協議が開始されたのですが、そこでは両地域間のFTA協議を6年ぶりに開始するという「明るいテーマ」がありました。ところが、この食品輸入制限の話はその向かう方向性とは逆行するものでありますし、何よりも今回のメルコスール側の議長国がアルゼンチンというおまけ付き。タイミングとしては、最悪です。

◆当然、17日の記者会見では、議長であるクリスチーナ大統領にこの輸入制限の質問が出てきたのですが、同大統領は、そのような制限は現時点で存在していないと高を括った回答に終始していました(地元紙ではこの発言で「撤回」と解釈しているところもありましたが)。

◆以上のとおり、アルゼンチン的な香りのする今回の一件。恐らく、経緯とか、落とし所とかについても、我々の常識を超えるところ(知らないところ)に本質があるのではないかと思っています。それが一体何なのかを探し当てるのがこの国を見る上での醍醐味なのではないかと思っています。
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9月9日、日本では共同が外電の引用しながらアルゼンチン政府が日本の地デジ方式を採用する見通しとの報道をしました。その後、日経や産経、朝日が後追いで続き、特に朝日は先走り、まるで決定したかのような報道をしていました。これらの紙面は基本的に共同のように現地紙の報道を受けてのものでしたが、産経はしっかりと日本の総務省からも裏づけをとっていたようで、他紙と比べて深さがあったように思います。

ちなみに、アルゼンチンの現地紙でLa Nacionあたりから今回の報道振りをフォローしてみましょう(スペイン語のリンク先になりますが、ご容赦のほど)。

Reuniones con Japón(9月11日)
La Argentina, más cerca de la norma de TV digital japonesa(9月10日)
Aviones, industria naval, TV y energía, en la agenda común(9月9日)
La Argentina, más cerca de elegir la norma japonesa de televisión digital(9月5日)

日本政府は寺崎総務審議官がアルゼンチンを訪問して、両国間の詰めの話合いをしているような印象を与えていますし、日程としてもアルゼンチンとブラジルの首脳会議の直後ということで、(偶然かもしれませんが)日本政府とブラジル政府の連携が取れているようにも感じさせます。リンク先には出ていませんが、8月下旬、事務レベルでアルゼンチンの担当次官がブラジルに訪問して協議をするなど、上手く物事が運ぶときの雰囲気を醸し出しています。

自分もそれなりに南米の地デジの動向については気になっていた一人です。ウルグアイでは苦渋を味わいましたし、ウルグアイ政府が丁度日本か欧州の方式を決めようかとしている最中に日本に戻ることもあって、中途半端な思いで戦線離脱をした記憶があります。当時は早すぎる勝負によって、欧州方式に攫われてしまいましたが、今回のアルゼンチンの顛末を前にすると、タイミングというのは恐ろしいと感じます。

これまでのアルゼンチンの方式決定経過を知る人々からすると、少なからず唐突感のある最近のアルゼンチンの見通しですが、関係者と話をすると、半年ほど前から潮目が変わってきたとの話を仄聞します。当然、日本方式が採用されるためには、現地の日本大使館と日系企業の努力が不可欠なのですが、それが必ずしも絶対条件とはなりません。今回もそれらプレイヤーの他に、一番強力だと思われるプレイヤー・ブラジル政府の存在を無視できません。

そもそも、ブラジルが日本方式を採用した後、総務省や外務省がなぜ地デジの南米展開に対して本気になったかを再確認すると、それは南米の雄であるブラジルが日本方式を「ブラジル・日本方式」と認識して、自ら日本方式を南米のスタンダードとして普及させようという意思が働いたためです。この力は大きく、たとえ日本が単独で南米の国々で普及に努めてみても、それは砂漠に水を撒く行為に似ています。日本方式が南米で話題になる理由、それは方式の技術的側面だけではなく、誰がその技術を語るかにかかっています。

現在の日本とブラジルとの連携がどこまで成熟化しているかは知る由もありませんが、一方で「ブラジル・日本方式」の普及のために、ブラジルは積極的な外交を展開しています。先に欧州方式を採用したコロンビアでの敗因について分析が出来ていませんが、ウルグアイの敗因の一つは、日本とブラジル両国が日本方式の南米普及に向けて本気になりきれていなかった点です。その意味では、時間稼ぎにも見える現在の日・欧・米の三種類による地デジ方式の戦いについて、日本とブラジルの連携を成熟化させる面では有利に働いたと言えるかもしれません。

また、今回のブラジルのアルゼンチンに対して地デジの話を進めるタイミングについてもブラジルの狡さが見えています。先の報道のとおり、アルゼンチンで日本方式が有利だと一気に報じられる切っ掛けになったのは、ブラジルとアルゼンチンとの首脳会談にて両国間で地デジについて技術者の共同チームの立ち上げに合意した点にあり、それに関連して、アルゼンチンの担当大臣(デビド企画相)が日本方式が有力な候補だといった主旨の発言をしたためです。これまでアルゼンチンは欧州方式に決定していると思っていた人々からすると驚きの内容となったわけです。

ブラジルがどこまで追い込んだかは知りませんが、アルゼンチンが置かれた立場と弱みを十分把握しきった上で、首脳会談に向けて経済協力にかかるパッケージを整え、その中に地デジを組み込むことに成功したと見ています。現時点でのアルゼンチンの弱みとは経済・金融状況をさします。昨年までの好調さが嘘のようにフェルナンデス新政権下のアルゼンチンは脆弱性を増しています。ブラジルの経済協力パッケージを出すタイミングは絶妙であり、これが例えば昨年9月であったとしても、アルゼンチン政府は見向きもしなかったかもしれません。

ただ、日本の楽観的な報道を鵜呑みにして良いかというと、意見が分かれると思います。18日までに発表されるとの報道もされていますが、「日本有利」の報道に対して、欧州勢は必死の反撃を水面下で行っていることでしょう。アルゼンチンで展開する欧州の通信会社にとっては、アルゼンチンで敗北することは、南米のビジネスモデルの再考を迫られる可能性もある事態であり、もしかすると我々の想像を超えるような動きを行っているかもしれません。また、ウルグアイにとっても、メルコスールの2大国が日本方式を選んだことで、自ら選んだ欧州方式が肩身の狭い思いをする可能性もあります(まあ、日本政府としては、ウルグアイが欧州方式を選んだことなど、今となってはどうでも良いことと扱っているかもしれませんが)。

アルゼンチンが日本方式を採用することが南米全体に与えるインパクトは大きいでしょう。南米の二大国である両国が日本方式を採用すれば、南米各国においても南米での方式の統一という考慮に入れる必要が否応にも生じてきます。ひとまず、日本と南米の絆が深くなるという点に限っていえば、良いニュースなのでしょう。
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