カテゴリ:ウルグアイの外交( 19 )

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◆ウルグアイ政府は、27日、大統領府HPで地デジ方式をこれまでの欧州方式から日本方式に変更することを発表しました。07年にバスケス大統領が決定したものが覆る形となりましたが、その理由として、記者会見に立ったカネパ大統領府副長官(写真中央)によれば、「地政学的な理由」を強調しました。

◆南米では、地デジの日本方式と言いながらも、実際はブラジルの採用以降から普及が広まったことでも「ブラジル・日本方式」というのが大方の採用国の認識です。今回のウルグアイの「翻意」の過程でも日本のみならず、ブラジル勢の南米の大国としてのアプローチが効果的だったとの見方が優勢です。ムヒカ大統領は、大統領に就任した3月から10カ月の間に5度もルーラ・ブラジル大統領との会談を行っているほど、ブラジル重視の姿勢を見せてきており、今月末にルーラ大統領が退任するのを前にして、ムヒカ大統領からルーラ大統領へのお土産を差し出したとも見ることができます。

◆記者会見には、カネパ大統領府副長官のほか、クレイメルマン工業エネルギー鉱業相(写真左)とアルマグロ外相(写真右)が同席。アルマグロ外相には、外交的見地からメルコスール加盟国が統一した方式を有する方が好ましいとの判断が働いてきており、それが「地政学的な理由」という点を浮かび上がらせていると見ることができます。また、クレイメルマン工業エネルギー鉱業相は、技術的な普及プロセスを強調したことも然ることながら、今回の決断が如何に国内の産業の活性化及び雇用の促進に資するかに力点を置いていることがうかがえます。このロジックは07年の欧州方式採用の時と変わりません。

◆ところで、日本政府が今回の決定を通じて何をするのかは、大統領府HPなどでは明らかになっていませんが、追って総務省のプレス発表などがあるでしょう。過去の報道からすると、他国の例に倣って、専門家の派遣や機材の提供といったところになるのではないかと思っています。ウルグアイにおいても、地デジ日本方式に普及の第1フェーズ(方式の決定)がようやく完了したところです。これからは第2フェーズである日本方式を採用したことによる果実を日本勢が獲得しなくてはいけないと思っています。他国も前例を教訓としながら、是非第2フェーズの成功をウルグアイでと願っています。
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◆麻生総理は11月にAPEC首脳会議のために南米のペルーに訪問しました。南米に日本の総理が訪問するのは、2004年に小泉総理がブラジルやチリに訪問して以来。日本と南米諸国との連携を考える絶好の機会と外務省の中南米局あたりは考えたことでしょう。積極的に麻生総理の日程に首脳会談などの日程を埋め込もうと動いたのではと察します。

◆その結果はこちらの11月21~23日のリンク先にありますが、首脳会談の相手を羅列すると次のとおり。

【11月21日】
 グエン・ミン・チエット ベトナム国家主席
 アラン・ガルシア ペルー大統領
【11月22日】
 ジョージ・ブッシュ 米国大統領
 アルバロ・ウリベ コロンビア大統領
 ドミトリー・メドヴェージェフ ロシア大統領
【11月23日】
 フェリペ・カルデロン メキシコ大統領

◆このなかで注目したいのは、ペルーとコロンビアを相手にした首脳会議です。

◆まず、ペルーとの首脳会談ですが、要旨はこちら。ホスト国なので首脳会議が開催されるのは、当然の成り行き。ペルーのガルシア政権は、アジア市場への戦略的なアプローチを実践しており、中国・韓国に並んで日本にも熱い視線を注いでいます。今回の首脳会談では二国間投資協定の締結も然ることながら、来年2月のガルシア大統領訪日時に向けたFTA締結への動きを確認したのでしょう。最初はどうなるかと思われたガルシア政権ですが、自国の資源を武器にして、強かな外交を進めているようです。

◆そして、コロンビアとの首脳会談ですが、要旨はこちら。その中で注目したいのは、麻生総理が「本年行われている日・コロンビア賢人会の議論も踏まえ、コロンビアとの投資協定締結交渉を開始することとしたい。また、租税条約(二重課税防止条約)締結についても検討したい」と二国間投資協定に触れているところです。

◆一般的に、二国間経済関係の制度的な枠組みの流れでは、まず二国間投資協定があり、次にFTA又はEPAという段取りがあると言われています。日本と中南米でEPAまで至ったケースはメキシコとチリの2件。いずれも米国や欧州という先行事例に乗り遅れまいとする「後追い型(又は追い込まれ型?)」で出来上がっています。したがって、南米の雄とされているブラジルと制度として二国間関係が進んでいない理由は、ブラジルが加盟するメルコスール(南米南部共同市場)と米国や欧州とのFTAが進んでいない点にあったりします。

◆一方、南米諸国の日本へのウェイトの置き方は、太平洋側と大西洋側でどうしても異なってきます。大きく分ければ、日本を意識する太平洋側諸国と欧州を見ている大西洋側諸国といったところでしょうか。今回のAPEC会合ではそれが色濃く投影されており、太平洋側のペルーとコロンビアが着実に日本との経済枠組みの強化を進めています。既にEPAを締結しているチリも加えて、日本の中南米外交の指針が太平洋側に位置する諸国との強化であれば、それはそれで立派なものだと思います。

◆そのような前提でウルグアイを考えていきます。本年10月のバスケス大統領訪日は総選挙が行われるだろうという読みで延期になり、ウルグアイ側によれば、来年の桜の花の咲く頃の訪日で調整しているとの話です。ただ、その時はまた総選挙の噂があり、つくづく日本とウルグアイ二国間のめぐり合わせは悪いです。これら二国間に議論されるべきテーマがあれば、今回のAPEC会合の日程に組み込まれていても良かったのでしょうが、そのようなテーマもありませんし、双方にとってお互いの影はこれまで以上に薄くなっています。

◆それにしても、この数年間で日本にとってのウルグアイの影は薄くなってしまいました。2004年3月のサムライ債の発行の時には、日本の関係者から南米でサムライ債を発行する安定性があるのはコロンビアとウルグアイと言ってもらっていましたし、その後も日本とウルグアイとの二国間投資協定の可能性について、コロンビアあたりと同列に考えていた日本政府関係者もいました。それが今では特にコロンビアとは大きく水を開けられており、挽回の余地はないほどになっています。二国間の関係向上を考える人々はその理由を総括することがあっても良いのではないかと思っています。

◆一つのヒントになり得るのは、コロンビアと日本双方の継続的なアプローチでしょう。例えば、最近では日本コロンビア賢人会があります。本年末に同会から報告がまとめられるとのことですが、その中に投資協定締結交渉が盛り込まれるのは確実だと思います。当然、コロンビアにいる日本関係者によるニーズもさることながら、官民の連携がしっかりと活きたケースだと高く評価されるのではないでしょうか。また、こちらでも触れていましたが、経済ミッションが成功裏に展開されるなど、重層的な経済交流が進んでいます。ウルグアイもコロンビアも移民100周年を迎えましたが、その迎え方に大きな差がついてしまったのは、それ以前の継続的なアプローチが成せた業だと思っています。
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◆本来であれば10月24日からバスケス・ウルグアイ大統領が訪日を果たし、麻生総理との会談が行われる予定になっていましたが、ウルグアイの現地紙では10月11日付で「延期」になった旨が報道されました。日本でも10月22日になってようやく時事通信がサンパウロ発ということで報じてくれましたが、そこでは「中止」の文字。結論から言いますと、「延期」も「中止」も同じというのがこれから話をしようと思っていることです。

◆そもそも誰がバスケス大統領訪日を推し進めていたのか。はじめに、日本側がバスケス大統領を日本に呼びたいとする意図は持ち合わせていなかったでしょう。百歩譲ってプロトコルの関係から結びつければ、本年9月にウルグアイへの日本移民100周年記念式典のため高円宮妃殿下が訪問したため、その返礼としてバスケス大統領が訪日するという解釈は可能だったでしょう。実際に、バスケス大統領が訪日する主旨を説明したウルグアイの現地紙は当初そのように報じていました。

◆しかしながら、一般的に、バスケス大統領の外遊をする場合、そのような儀礼的な主旨のみで外国を訪問することはあまりありません。必ず政治・経済的な大義名分又は成果を求めてきます。昨年来、バスケス大統領はアジア・オセアニア諸国(NZ、マレーシア、韓国等)訪問を開始していますが、各国には投資誘致のPRや漁業関係の協議など然るべき目的がありました。

◆今回の訪日に関しても、チリで開催されるUNASUR(南米諸国連合)の会議とエルサルバドルのイベロアメリカ会合の合間の数日間を充てるという強行スケジュールを組むほどであり、第三者からすると、何か特段の目的があったのではないかと思わせるものでした。少なくとも、ウルグアイ側は、その日程を設けてまで、日本との間で何らかの話し合いを持ちたいとするメッセージを盛り込んだのではないかと読み取れます。

◆ところが、日本側の関係者から仄聞する限りでは、バスケス大統領訪日が内定してからでも、両国間で経済的なテーマが話し合われる予定はなく、訪日は儀礼的なものに過ぎないとの見解を示していました。首脳訪問としての扱いでも、他国の首脳と比較しても劣るものでした。まず、そういった日本のテンションの低さ、つまり日本とウルグアイとの間の温度差、をウルグアイ側も時間の経過と共に感じ取っていたのではないでしょうか。

◆次に、両国間の経済面での関係強化の可能性については、9月25日にウルグアイにおいて、ウルグアイでビジネスに携わる日系企業とウルグアイ政府関係者との間で協議が持たれたとの話を聞いています。ビジネスの現場に携わるプレーヤー達も参加して、両国で何か出来ないかという可能性を模索したのでしょうが、その協議の結果をウルグアイ政府内で咀嚼したのかもしれません。その結果、ウルグアイ側にとっても今回バスケス大統領が無理をしてまで訪日することもないだろうという結論に至ったのではないでしょうか。

◆首脳や皇室関係者の往来について、任国の大使は実績として非常に大切にしたがるとの話を一般論として聞いたことがあります。今回もその意味では皇室関係者が日本とウルグアイの関係構築100周年という節目で訪問したことに意義を見出すことが出来たのでしょうが、バスケス大統領訪日については、仏を作りながら魂を込める作業を怠った結果であると見ることが出来るでしょう。

◆バスケス大統領の訪日時期がウルグアイがサムライ債を発行し、欧州勢と地デジの規格を争っているような2007年上半期であれば、日本にとっても非常に意義のあるものでしたが、現在の両国には特段のニュースも争点もなく、そのためインセンティブはありません。何もないから訪日してもらうのに適しているという発想があるのではないかと勘繰りたくなるようなタイミングの悪さでした。

◆事の真相は別のところにあるのかもしれません。しかし、ウルグアイ側が延期の理由にしている「日本の政治状況を配慮」という綺麗ごとを言わせてしまったことに対して、今回の訪日を日本側で推進してきた人々がいるのであれば、今回の失敗にかかる総括が必要なのではないかとも思われますが、如何でしょうか。
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◆8月上旬から中旬にかけて、ベネズエラのチャベス大統領は、南米4カ国(アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビア、エクアドル)を歴訪していました。一部報道では同大統領の「石油マネー外交」と呼ばれているとともに、どちらかというとベネズエラに好意的な急進左派の大統領がいるような国々を選んでいるような印象も受けました。今回行われたチャベス大統領の歴訪の意味とウルグアイのスタンスについて若干考えてみましょう。

◆8月7日、チャベス大統領はウルグアイを訪問し、バスケス大統領と会談しました。会談後の記者会見の席で両国は幾つかの経済協定を締結したことを発表しました。その中には、ベネズエラ産石油の購入にかかる支払方法やガス・プラント建設にかかるものも含まれます。

◆既に両国の関係では、ベネズエラ・アルゼンチン・ウルグアイ3カ国の国営石油公社の出資によるベネズエラ・オリノコ流域開発及び石油採掘を目的とした共同事業会社の設立構想を進めてきています。ウルグアイは、同プロジェクトが推進されることによって石油高騰による財政負担を軽減させ、同じくベネズエラと共に進める精油所拡張プロジェクト実現によって石油製品の輸出国になる可能性も出てくることを期待しています。

◆このような動きに対して、数ヶ月前、ウルグアイの議会では、野党がベネズエラとの石油ビジネスの偏重に対して警鐘を鳴らしていましたが、現在の野党の非力からすると、影響は限定的でしょう。また、バスケス政権としては、ベネズエラが安定的な供給を約束し、更に支払方法においても便宜を図ると協定で決めていることもあって、前のめり姿勢になっているのが実情です。

◆実は、このような姿勢は、今回チャベス大統領が訪問する他の国々の首脳も同様です。ベネズエラは、アルゼンチンに対してガス・プラント建設による天然ガスの安定供給に一肌脱ごうとしていますし、エクアドルに対して精油所の改修工事への支援を申し出ています。また、ボリビアには国営ガス会社との共同事業を提案すると報じられています。

◆これらを見ても判るように、チャベス大統領の最大の武器は、石油及び天然ガスをお題目にしながら石油マネーを原資とした上での積極型投資です。数年前に南米を席巻した中国の空手形と異なり、ベネズエラの場合は実現性が高いと思われます。チャベス大統領はベネズエラ国営石油公社(PDVSA)をしっかりと握っており、今回の歴訪でもいずれの局面にも同社が関与していました。

◆チャベス大統領がこのように南米大陸を向き始めたのはごく最近で、2001年以降だったと記憶します。石油価格の高騰と米国への不信が同じタイミングで起きていることを政治的に利用しているのがチャベス大統領であるという構図が見て取れます。また、今回訪問を受けた各国では、総じてチャベス的な急進左派への信条面でのシンパシーがあるように見受けられますが、既に見てきた通り、各国とも石油・ガス分野において弱みがあり、ベネズエラからの積極的な投資は喉から手が出るほど欲しがっています。その意味で、関係各国は信条面での共通認識があることは間違いないとしても、凡そ打算的な意味合いも含まれていることも考慮してよいでしょう。

◆そのなかで、チャベス大統領の訪問国の中でもっとも打算の色が濃いのがウルグアイです。同国のバスケス大統領の信条は穏健左派であり、チャベス大統領の思想とは相容れません。それにも関わらず、チャベス大統領の急進左派諸国歴訪に華を添えているのは、ウルグアイにおいて石油と天然ガスの安定供給が不可欠であるという政府の認識があるためです。これまで天然ガスをアルゼンチンに依存してきたが、同国が頼りにならないことを痛感し、石油でも高騰を前にして安く手に入れる方法を見つけ出す必要に差し迫っていました。それらの問題を解決させてくれるパートナーがいれば、それがブラジルでも米国でもベネズエラでも構わないというのがウルグアイの考え方です。

◆また、7日に行われた両国首脳記者会見では、バスケス大統領から「早い段階でベネズエラのメルコスール正式加盟が決まることを望む」と表明し、貸しを作っています。同大統領としても、チャベス大統領の信条に惚れこんでそのような声明を出しているわけではありません。ベネズエラが正式加盟することを通じてメルコスールの不均衡性(ブラジル・アルゼンチン主導型の運営)に一石を投じる役割を目論んでいるためです。小国ならでは、といった動き方をしていると改めて実感します。
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◆ウルグアイの外交を考える上で考慮しておきたい一つに米国との関係があります。ウルグアイは左派政権であり、その支持層又は与党政治家のなかには旧来の反米イデオロギーに凝り固まった集団がいます。ただし、南米の左派政権のなかでウルグアイは総じて米国と友好的であり、昨年にはバスケス大統領がFTAを締結する意思を表明する直前までいったことは記憶に新しいところです。

◆7月7日付の当地紙エル・パイスでは、「ウルグアイと米国との関係の再開」という切り口から今後米国要人が相次いでウルグアイを訪問することが報じられています。具体的には、7月10日にバーンズ国務次官、7月12日にポールソン財務長官、9月にはグティエレス商務長官といったところです。また、これとは別に8月には企業団体でもあるカウンシル・オブ・ザ・アメリカズがモンテビデオで会議を開催するとのことで、米国企業を含めた有識者等が集まることが期待されています。これら重層的なコンタクトが図られることがウルグアイ外務省及び現地米国大使館からエル・パイス紙に説明があったとのこと。

◆7月に相次いで行われる米国政府要人の訪問については、ウルグアイだけではなく、他にもチリとブラジルが予定されるとの報道がされています。それらはいずれも米国にとって南米「友好国」と位置づけられており、既に確固とした絆が構築されたコロンビアに次ぐ戦略的関係強化対象国として、継続的な交流を図られていると見られます。なかでもウルグアイは、3月にブッシュ大統領がウルグアイ訪問を果たしており、政治的且つ経済的な関係構築へのフォローアップの意味合いが含まれていると報じられています。なお、両要人が訪問時には、いずれもバスケス大統領との会談が予定されています。

◆これまで、3月のブッシュ大統領のウルグアイ訪問のフォローアップの意味合いからすると、ウルグアイは米国に対してエタノール及びソフトウェアの面での関係深化を展開しています。前者については、6月にレプラ工業相がセンディックANCAP(石油公社)副総裁及びトリウンフォ工業省局長を連れて米国3大学でエタノール精製技術を見聞したと報じられています。米国と南米とのエタノール分野での協力関係については、既に米国とブラジルという大きな柱が存在していますが、ウルグアイもその柱に付随するような戦略を進めています。

◆それでは、バスケス政権発足以降のウルグアイ・米国二国間関係強化が実績となって現れているかというと、まだ顕在化していません。ウルグアイと米国との関係にはブームのようなものがあり、2005年にウルグアイ牛肉の対米輸出が好調であったときには、ウルグアイの輸出先の第1位が米国になるということもありました。それまでのメルコスール重視の貿易であったウルグアイにとっては転換点とも解釈できる事象であって、その翌年である2006年に米国とのFTAを模索して、その勢いを拡大しようとする動きがあったことも納得のいくことでした。

◆ところが、2006年のFTAへの動きについては与党内での大きな反発があり、与党はFTA推進派と反対派で二分化の様相を呈しました。そのような最中、中立を保っていたバスケス大統領はワシントンで開催されたカウンシル・オブ・ザ・アメリカズの席で「FTAという列車に乗り遅れてはいけない」と述べ、推進派が勝利したような展開になりました。それまでFTA協議開始に懐疑的であった米国政府もバスケス発言をもってウルグアイ政府のFTAへの本気度を確認したように見受けられました。

◆ところがFTA協議は開始直前にバスケス大統領が拒否することを自ら表明。米国政府は冷や水を掛けられることになりました。それから、2007年に入って、両国間ではTIFA(貿易投資枠組み協定)を締結し、ブッシュ大統領もウルグアイを訪問しましたが、それらをもってしても貿易額に何らかの影響を与えるものにはなっていませんし、2006年のウルグアイの輸出先第1位は再びブラジルになっていますし、今年の上半期の数字を見ても、その傾向は変わっていません。

◆これら両国の動きをどのように見るか。一つは、ウルグアイは通商面における米国市場を期待しており、米国はウルグアイの南米における位置づけ(左派ではあるが親米)を評価しているという両方の思惑が合致しているという見方です。つまり、両国は未来志向的に構えており、即効薬ではないものの、現時点では基盤整備をしっかりとさせて将来の貿易と投資の拡大に備えるといったものです。これがメディア等の一般的な見方であり、その原則で推進派と見られているアストリ経済財務相(写真)やレプラ工業相は動いていると見立てています。

◆ただし、そのような見立てをウルグアイ側の一方的な願望又は「楽観論」と見る向きも払拭できていません。一つには、やはりバスケス大統領の朝令暮改に近かったFTA協議への姿勢は米国政府に不信感を与えています。そして、メディア辺りが見立てている米国にとってのウルグアイの戦略的重要性も以前ほど高くないでしょう。一つには米国とブラジルの利害が「反チャベス」というテーマで一致しており、経済面でエタノールという大きな柱が構築されたことで、米国は急速にブラジルと接近しており、米国にとってのウルグアイの役割は大きく低下したと考えることができます。

◆そのような流れは恐らくFTA推進派が一番肌で感じているところであり、流れを止めないためにレプラ工業相などは積極的に米国訪問や関係者とのコンタクトを図っていると見ることができます。つまり、昨今の両国間の交流の多さは、良い傾向の裏づけではなく、悪い傾向に流れないための危機管理という見方も可能になります。実際に、米国による対ウルグアイ投資について具体的な案件が出てきませんし(むしろ米国企業による投資計画の縮小が出る始末)、FTA反対派の一部からはTIFAという枠組みを設定しても何の意味もないと見透かされている始末です。

◆一度失ってしまった米国の信頼をどのように回復するのか。実はウルグアイ政府の大部分及びメディアは、昨年9月のFTA協議拒否が大きな潮目になっており、その表層的な交流の拡大に目を奪われてしまって、米国が先の「楽観論」に依拠していないことに気が付いていないかもしれません。両国政府にとって中長期的な目標に対する共通認識が出来ていないような気もします。ただし、短期的には、2009年の大統領選が絡まってくるわけで、米国政府は当面親米派でもあるFTA推進派(アストリ経済財務相)に対して実績を与え続けるという策しかなく、それを当座の共通認識と呼ぶことは可能なのかもしれません。
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◆前回のブログでは、今年9月と報じられているバスケス・ウルグアイ大統領訪日予定について、日本とウルグアイという二国間だけにとらえるのではなく、東アジアの他国との観点から着目してみてはと述べてみました。今日は、ウルグアイと東アジア諸国との関係を考える際に象徴されるであろう一つの材料を提供したいと思っています。

◆4月20日付の大統領府HPですが、ウルグアイの企業ミッションが5月10~12日に中国・上海で開催される展示会(SIAL CHINA)に出展するために訪中することが発表されました。また、同ミッションは、中国訪問の後、5月14~16日にかけて韓国にも訪問することも伝えられています。

◆企業ミッションを構成しているのはINAC(全国食肉協会)で、SIAL CHINAにおける同協会の出展ブースに参画する企業は、食肉加工企業6社になります。また、同ミッションでは、過去数年続けてきた展示会出展だけではなく、ウルグアイでトップクラスのシェフを同行させ、上海及びソウルにおいて、ウルグアイ産ワインとウルグアイ産牛肉の料理による試食(試飲)会が開催されると報じられています。実際に、ウルグアイ産牛肉のレベルを該当国の企業及びメディアに売り込むことが練られています。

◆まず、ここで注目したいのは、南米から30時間以上もかけた東アジアへの企業ミッションに際して日本は外されていることです。ウルグアイ側から日本側に何らかの打診が見受けられなかったことからすると、そもそもウルグアイから日本に対する関心を有しなかったということが垣間見えてきます。

◆ウルグアイにおける最大の産業は牛肉を中心とした食肉加工産業であり、輸出額の20~25%を占めています。2003年以降のウルグアイ経済が回復した一番の原因は、この主要産業が対米輸出によって活性化したことによります。それぐらいウルグアイでは食肉加工産業に対する位置づけは高いと言って過言ではないでしょう。

◆現在、ウルグアイから日本に対する牛肉の輸出ですが、まったくありません。これは、2000年にウルグアイ国内で口蹄疫が発生し、日本への輸出が出来なくなったためです。1998年に初めての牛肉輸出実績を記録して以来、対日有望産品になろうとしていたので、両国にとって不幸な出来事になりました。現在、ウルグアイはワクチンを接種した上での口蹄疫清浄国とされているので、米国等には積極的に輸出されています。ただし、日本は、ワクチンを接種していることは必ずしも清浄な状況ではないとする解釈を採っているので、ウルグアイ産冷凍肉及び生肉の輸入禁止が続いています。

◆両国間では、生肉・冷凍肉対日輸出解禁に向けた動きとして、昨年6月、日本の農水省はウルグアイ国内にある5つの工場に対して加熱処理肉の輸出を認めました(参考)。ただし、ウルグアイ側にとっては、飽く迄主眼は冷凍肉の輸出なのでしょうから、今後日本側との折り合う接点を見出すことは難しいのかもしれません。実際に、先述のとおり、解禁されてから現在まで、加熱処理肉の対日輸出実績はありません。

◆そのような状況下における今回の東アジアに向けたウルグアイ企業ミッションですが、構成員をつぶさに見ていきますと、先に述べた対日輸出のアクセスを持つ5つの指定工場に属する企業のうち3社がメンバーに入っていたり、さらに全国食肉協会会長がミッションに同行しています。例えば、今回の一連のイベントの企画者は全国食肉協会なのでしょうが、同会長は昨年11月、一度日本と韓国に訪れて農水省関係者と会談したこと報じられていました。また、日本を訪れた理由は日本において開催された展示会(「ボリビア・パラグアイ・ウルグアイ3カ国展」)に出展するためと聞いています。

◆その昨年の動きを受けての今回のミッションであれば、全国食肉協会としては韓国には将来が見えたのでしょうが、日本には次のステップを踏み出す価値を見出さなかったことになります。ちなみに、韓国は日本と同じくウルグアイ産冷凍肉の輸入を禁止しています。そのような最近の韓国の微妙な変化については、どことなく先般来の韓国のFTA戦略と符合しているきらいもあり、果たして日本政府がどこまで危機感を持っているかは不明です。

◆バスケス大統領の訪日(又は東アジア歴訪)の主眼が牛肉といったミクロな話になるとは思いません。先月のチリ及び中東諸国の歴訪を見る限り、バスケス大統領は「投資と貿易の促進」というテーマで複数の大臣を連れて陣頭指揮に立ってやってくるでしょう。そして、そのようなウルグアイ側の意図を既に中国及び韓国側は織り込んでいて、中国の場合は牛肉の輸入及び自動車産業の投資(奇瑞汽車社の動き)という布石を打っていますし、韓国の場合は中長期的なFTAを念頭に置いて牛肉関係で何らかの合意を模索してくると思われます。

◆それでは、日本ではどうなるか。細部に宿るものを信じるのであれば、牛肉のケースでは、「加熱処理肉の門戸を開放したのにもかかわらず、そもそもウルグアイ側に対日輸出の意欲ががない(ので先に進める必要性はない)」と言い張りそうな日本側と、「加熱処理肉解禁はそもそも興味がなく、肝心なのは冷凍肉の解禁だ」と言いそうなウルグアイ側の認識ギャップの可能性がすべてを語っているような気がします。この議論に接点を見出すのはなかなか難しいでしょうが、国益に立った観点から進めてもらい、「角を矯めて牛を殺す」ような力が日本政府内で大きく働かなければと見ています。
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◆この一ヶ月間、バスケス・ウルグアイ大統領は、4月第2週にチリ、4月第4週から5月第1週にかけてアラブ諸国というように外遊を2度行いました。いずれも企業ミッションを同行させており、前者で50名、後者で20名ほどが集まったとのこと。バスケス大統領が陣頭指揮に立って海外各国への投資誘致及び経済活性化の行脚をおこなっている様子が垣間見えます。今回は前者のチリ訪問をテーマにします。

◆今回、バスケス大統領がチリに訪問する準備は、実は昨年11月下旬あたりから形になってきました。その前捌きを行ったのがアストリ経済財務相。ウルグアイがチリに目を向けた背景には、昨年9月の米国とのFTA協議未遂があります。それまでのバスケス政権の通商政策は、米国一辺倒であり、実質的に通商政策を牛耳っているアストリ大臣を筆頭とした「経済チーム」(共和国大学経済学部出身者を中心とした政府高官グループ。経済財務相の下に経済財務次官、同省マクロ経済顧問、関係局長等が該当します)がバスケス大統領の内諾のもと、ガルガノ外相をはずした形で進められてきました。

◆ところが、バスケス政権内に存在する反米勢力の抵抗によって、政権の二極分化回避を優先したバスケス大統領は米国とのFTA協議を凍結。その結果、米国政府に対して前のめりになって交渉を進めてきた「経済チーム」は梯子を外される結果となりました(この凍結によって、当時下準備を進めていたサラチャガ経済財務省局長は抗議の辞表を叩き付けたりしました)。そして、この政治的な敗北を前にして、「経済チーム」は暫く開店休業の状態になり、バスケス政権は米国一辺倒からの戦略立て直しを迫られました。

◆その戦略立て直しに対する当座の回答がチリとの戦略的連携であり、「経済チーム」の誰の発案かは知る由もありませんが、アストリ経済財務相はチリに訪問をして、前捌きを行ったのです(ご参考まで、ここまでは過去のブログでも触れているはずです)。ただし、このときもアストリ大臣は前のめりの姿勢を崩しておらず、チリとの経済提携の選択肢の一つに二国間FTAを加えていました。その積極姿勢に対して、元来二国間FTAには反対の姿勢を貫いているガルガノ外相は、今年1月にチリを直接訪問して釘を刺すなど、「ポスト米国」においてもバスケス政権閣僚間での鞘当が続いていました。

◆今回のバスケス大統領の訪問を通じて見えてきたことは次のとおりです。(1)ウルグアイとチリ両政府間で経済協定等を3ヶ月間で形にすること、(2)二国間FTAには触れず、チリとメルコスール(南米南部共同市場:ブラジル、アルゼンチン、パラグアイ、ウルグアイ、ベネズエラが加盟)との関税撤廃時期の前倒しを呼びかける、(3)チリは対太平洋諸国、ウルグアイは対大西洋諸国とのゲートウェーとして戦略的な経済関係を構築すること、等があります。

◆(1)については6つの協定が署名され(9つという報道もありますが)、それを7月までに具現化するのですが、そのベースになっているのが(3)で指摘した南米南部ゲートウェーという新しい発想です。これはどちらかというとバチェレ・チリ大統領(写真左)のアイデアのようで、それにバスケス大統領は彼女のアイデアに乗ったと見られています。ウルグアイの経済財務省内では、これまでに米国の他に中国とインドとのFTAを含めた経済協定の検討をしていますので、アジアへの窓口としてのチリの役割の申し出は有難いものになります。また、報道でもありますように、既に50以上もの国々と二国間FTAを締結しているチリと経済関係を強化することは、メルコスール以外の市場の確保を命題としているバスケス政権に大きなメリットになります。

◆また、(2)については、アストリ経済財務相の過去の発言からはトーンダウンしています。これを見て、ウルグアイがブラジルやアルゼンチンといったメルコスール加盟国に屈したと判断するのは早計でしょう。バスケス政権(具体的には推進役のアストリ経済財務相)は、米国FTA協議未遂という失敗から教訓を学んでいます。それは、名より実をとるということです。米国FTA協議の際には、話だけが先行してしまい、実質的なメリットは省みられることはありませんでした。それ以降のバスケス政権はメディアを踊らせるような真似は慎み、ローキーの中で既成事実を構築していく戦術に変えています。具体的には米国とのTIFA(二国間投資枠組み協定)があります(詳細は別に機会に話すとしましょう)。今回のウルグアイ・チリ首脳会議における声明でも、ブラジルやアルゼンチンが注目しているなかで、彼らに言質を与えないという賢明な判断をしたと理解すべきでしょう。

◆南米の優等生であるチリと、それに次いで(南米諸国の中では)国際的な評価が高いウルグアイが戦略的な提携を結ぼうとする動き。「南米=ブラジル」だけではない新しい視点を持つことがあっても良いのではないでしょうか。
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◆最近のウルグアイの通商外交は賑やかな展開を見せています。先のブログにも書きましたが、3月9~11日にかけてバスケス大統領はブッシュ大統領を迎えて首脳会談を行いました。2月26日にはルーラ大統領がウルグアイを訪問しており、ウルグアイにとって鍵となる大国と通商面にかかる協議を一気に行ったことになります。

◆そして、次に待ち受けているのが4月9~10日に予定されているバスケス大統領のチリ訪問。二国間通商関係が話題の中心として予定されていますが、何が一体決まろうとしているかについては、ウルグアイ政府内で主導権争いが続いています。

◆誰が主導権争いをしているかというと、ガルガノ外相とアストリ経済財務相。この構図は、政権発足当時から変わっていません。前者は政権内でもメルコスールとの統合を最優先すべきという考えの持ち主。後者は、メルコスールの機能には限界があり、現状はウルグアイのためになっていないので、メルコスール加盟国を続けつつも、域外の通商関係を促進すべきという論者です。

◆実は、チリとの通商関係にかかる駆け引きについては、2006年後半から始まっています。同年12月にアストリ経済財務相がチリに官民ミッションを派遣しており、その際に将来的なFTAの締結の可能性を打ち上げました(参考)。その考えについては、バスケス大統領も賛意を示しており、同年9月に米国とのFTAを断念してからの次の一手としては効果的であると思われていました。

◆一方のガルガノ外相は、2007年1月に自らチリ訪問など行い、経済財務相主導で進められる通商外交の修正に躍起になっています。ウルグアイ政府を見た場合、通商面を含めたメルコスール統合を進めているのは外務省である一方、実質的にFTA戦略を検討しているのは経済財務省になっています。米国とのFTAについても外務省は蚊帳の外であり、バスケス大統領とアストリ経済財務相を中心に議論が進められてきたと見てよいでしょう。それは、ガルガノ外相としては、鼻持ちならないだけではなく、アストリ経済財務相の進める政策はメルコスールの軽視に映るわけで、与党・左派連合が決めた綱領にも受け容れらないと真剣に考えています。

◆ガルガノ外相が立てたチリ向けに戦略は、報道によれば次のとおり。
・メルコスールとチリとの間における関税逓減プロセスの前倒し(2012年→2010年)
・チリ及びウルグアイ両国による東南アジア市場の開拓戦略の共有化
・チリ(Prochile)及びウルグアイ(URUGUAY XXI)の貿易促進機関の戦略共有化
・チリの官民ミッションのウルグアイ訪問(3月末)

◆一方、アストリ経済財務相が立てている対チリ通商戦略は次のとおり
・チリとの早期FTA実現
・チリとウルグアイ企業による合弁化による対米輸出促進

◆以上の両者の戦略を比較しますと、アストリ経済財務相としては、ガルガノ外相の路線はtoo late, too smallであり、何もしないための時間稼ぎ程度にしか思っていないかもしれません。また、産業界にとっても、この戦略に実効性があるとは思っていないでしょう。例えば、現在のウルグアイでは、輸出促進に関与する省庁は5つに跨っており、一元化を試みているものの、外務省と経済財務省では折り合う余地がない状況にあります。その中で、外務省傘下にあるURUGUAY XXIに対する産業界の評価は非常に低く、ガルガノ外相の戦略は手持ちの駒を右から左に動かす程度のインパクトしかないでしょう。

◆また、ガルガノ戦略で新たに出て来た視点は、東南アジアを新規輸出市場として検討している点です。これは今までの政権内でまったく聞いたことのないテーマであり、更に言えば、何故この時期に東南アジアなのかという点が不明です。新聞報道によれば、バスケス大統領は今年の中盤にアジアを歴訪するとの話が出ています。その候補となっているのが日本、中国、インドであり、東南アジアは含まれていません。また、ウルグアイ外務省にとっても、同地域にはマレーシア以外に自国の大使館はないなど、地域全体を検討する余裕はないと思われます。

◆最近の報道では、ガルガノ外相は5月にも更迭されるとの話がありますし、そもそもバスケス大統領とは不仲であるとの話も伝わってきています。通商戦略についてバスケス大統領はアストリ経済財務相周辺に権限を与えているなかで、それに抗して孤軍奮闘するガルガノ外相の姿は痛々しさすら与えます。この閣内不一致、与党内の派閥バランスの維持のためとも言われていますが、バランス維持のコストはなかなか高くついているようにも見えます。
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◆タイトルにある「兄弟」とはアルゼンチンとウルグアイのこと。どちらが兄であり、弟であるかは改めて言うまでもないでしょう。そして、喧嘩の題材は、セルロース工場建設問題。一昨年の12月に両国間を結ぶ道路(結果的に橋になりますが)がアルゼンチンの環境団体が封鎖してから1年以上が経過しています。進展が無いことはないのですが、それぞれ主張が平行線を辿っていて、解決の見通しは立っていません。

◆先々週、自分はアルゼンチン各所を旅していて、その場所で様々な方々と話をする機会がありましたが、必ず出てきたのがこのセルロース問題の話題。ある人は2007年の大統領選を迎えるキルチネル大統領にとってのアキレス腱という表現もしていました(逆にいいますと、それほどキルチネルは安泰ということですが)。

◆この話題が出てくるときに、議論になるのが「何故BOTNIA社(フィンランド資本)はウルグアイ国内のどこでも工場を建設できたにもかかわらず、フライベントスという場所に建設したのか」ということです。結論からすれば、同地にはアルゼンチンを結ぶ橋があり、セルロースの材木を調達するのにロジスティックの観点から恵まれていますし、現在は機能していない鉄道の線路もあり、フライベントス港も川の港としてはそこそこの深さが保たれているなどの経済合理性から判断してものと推測されます。

◆ところが、この経済合理性というものがこの地域ではそれほど機能しないことを今回のケースは証明しているような気がします。まず、問題の発端は、対岸のエントレリオス州知事が環境問題だと騒いだことに始まりますが、これは同知事がBOTNIA社に賄賂を要求してそれを断られ、最終的にウルグアイに工場を建設されたことへの腹いせであることは公然の秘密になっています。更に、その同州知事の私怨に便乗した「環境団体」という名の政治団体が事を複雑にして、セルロース工場が環境に与える影響の程度の話は、いつの間にか「私達は、第三者機関の調査結果を信用しない。要は対岸に煙突の存在する工場があるのが許せない」という感情論になっているのが現状です。

◆このような感情の赴くままに行動することが行動規範となっているのがアルゼンチンらしさなのですが、それらアクターの頭領がキルチネル大統領であり、彼自身もこの行動規範の典型といっても過言ではありません。とにかく、彼は、2007年の大統領選までの間、「強いリーダー」像を維持・強化させるために、ウルグアイに対しては強硬な姿勢を崩す気はありません。アルゼンチンのウルグアイへの要求は「とにかく工場建設を停止しろ」ということです。

◆弟分のウルグアイとしては、アルゼンチンの要求は余計なお世話であり、自国内で進められる海外からの投資をとやかく言われる筋合いはないと心の底では思っています。ところが、この当然の主張について、あまり堂々と言えない弱味をウルグアイ政府は抱えています。それは、バジェ前政権に遡りますが、両国間では国境沿いを流れるウルグアイ川沿岸に工場等を建設する場合には両国が設置したウルグアイ川委員会において了解を取る必要があります。バジェ前政権では、アルゼンチン政府に対して口約束はもらいましたが、正式な了解をもらってはいなかったと言われています。現在、アルゼンチンとウルグアイでは国際司法裁判所でこの点を争点にして闘われていますが、アルゼンチンが訴えている「委員会での了解はもらっていない」という論点については、アルゼンチン側に理があるとも見られています。この結果については、2008年に結審します。

◆わざわざ2008年を待って、両国が行くところまで行ってしまうのが利口なのかという駆け引きがお互い続く中、アルゼンチン政府から昨年11月の時点でスペイン国王を仲介役としてコミットさせるという荒業を使ってきました。ブラジルもベネズエラも及び腰であった仲介役に乗ってしまったスペインも軽率に見えましたが、いずれにしてもその後はスペイン政府がこの仲介の可能性の模索を続けてきました。そして、1月下旬から2月上旬にかけて、ようやくアルゼンチンとウルグアイはスペインにおいて「対話」を行うことを容認しました(この辺り、どこぞの6カ国協議に似ていますが)。

◆なぜこの時期かというと、昨年ウルグアイはアルゼンチンに対して「アルゼンチン国内で行われている道路の封鎖はウルグアイに甚大な影響を与えているため、封鎖を解除すべき」と国際司法裁判所に訴えていたところ、1対14で「ウルグアイには甚大な影響を与えていない」として封鎖解除を却下した時期にあたります。スペイン政府は結果の如何にかかわらず両国に特使を派遣するつもりでいましたが、アルゼンチンの勝訴であったことが問題を円滑化させる可能性を持たせています。アルゼンチンは「名」が欲しく、ウルグアイは「実」が欲しいわけで、両者による協議の始まり方としては好ましいものになっているのかもしれません。

◆ウルグアイ側のワースト・シナリオは2008年の国際司法裁判所における敗訴であり、それによりBOTNIA社工場の停止です。この場合、同社はウルグアイ政府を訴えるでしょうし、その損害賠償は膨大な額に上ることが想定されます(同社の投資額でGDPの10%近くを占めています)。それまでどのような出口戦略を見つけ出すことが出来るのか。まずは、「対話」の開始がどの時点で「交渉」に至るのか。次のポイントはそこだと思われます。
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◆蒸し暑さを残す昨夕、明日(日曜日)の天気予報を見ると、「雷雨」。折角の週末に出掛けようと思っていたので残念に思っていました。夜半を迎え、外は次第に怪しい雰囲気に、風が冷たくなってきたかと思うと、ラプラタ川の沖では雷の連続。その30分後から「本格的な」雷雨がやってきました。最近体験したことのないようなラプラタ川からの雨風の影響で、自宅リビングの窓ガラスは、今にも割れて飛び散りそうな気配。随分と遅くまで心配していました。

◆さて、前回のブログでも少し触れた半期に一度開催されるメルコスール共同審議会。先週後半には大臣会合ということで、加盟各国から外相と経済財務相が出席し、協議が行われていました。ウルグアイの主要各紙は、その時の様子を記事にしていますが、そのトーンは「メルコスールにとって最悪の時期」といったものです。

◆この大臣会合の中心人物はアストリ経済財務相。このブログにも度々登場してきますが、経済財政(場合によっては通商)政策を束ね、実質的な現政権の首相のような役割を担っています。このアストリ大臣、同会合の席で、彼の中で鬱積している不満をウルグアイ政府の見解として発しました。

◆その内容は、(1)アルゼンチン国内で地方の「環境団体」等行っている道路封鎖はメルコスールの憲法ともいえるアスンシオン協定第1条に違反するが、アルゼンチン政府は一向に事態解消にイニシアチブを発揮していない、(2)ブラジルについては、メルコスール議長国でありながらも、先のアスンシオン協定違反に対して、指一本も動かそうとはしないリーダーシップの欠如が顕著であり、このことに代表されるように現在メルコスールにはリーダーシップを発揮するアクターが存在しない、(3)ウルグアイにとって、加盟国内の大国と小国の格差は深刻であり、特に小国(ウルグアイ)がメルコスール域外諸国との通商協定(具体的にはFTA)を結ぶことを大国は容認すべき、等々といったものです。

◆(1)については、タイアナ・アルゼンチン外相から、同国政府も道路封鎖の解消には動いていると説明しつつ、「環境団体」の動きの根底にはウルグアイのセルロース工場建設及びウルグアイ川協定違反の存在を指摘。更には、ウルグアイが最近アルゼンチン国内の4州で生産される製品の輸入に対して付加価値税相当の関税を加えていることがアスンシオン協定違反であると抗議することで、双方の議論は噛み合わずに終わりました。

◆(2)については、前回のブログでも若干説明しましたが、ブラジルは2006年下半期において自国の大統領選挙があったため、メルコスールに構っている状況ではなかったというのが本音でしょう。したがって、アルゼンチン国内の道路封鎖問題に起因するメルコスール域内の移動・交通の自由という根本的な問題についても、アルゼンチンとウルグアイの二国間で解決して欲しいといったものでした。この問題は、解決の目途が立っていないため、誰も腫れ物に触りたくないのでしょう。南米域内で存在感を示すために介入をしばしば行うチャベス・ベネズエラ大統領も動いていない点からしても、察することができるのではないでしょうか。

◆(3)については、ブラジルは何もしていないわけではないというのがブラジル政府側の見解です。具体的には、メルコスール域内での小国側からの輸出に対するローカルコンテンツ率の容認(60→70%)や対外共通関税の二重徴収の撤廃を提案しています(アルゼンチンは同提案に対して「検討したい」と態度保留)。しかし、アストリ経済財務相は、このレベルの改善策では意味がないと指摘し、本日の当国主要紙とのインタビューでも表明していますが、あくまでメルコスール域外との通商協定の自由を求めていく方向です。ちなみに、アストリ大臣の路線については、これまでもアモリン・ブラジル外相なども「対外共通関税の原則をいじくることは、メルコスールの心臓部にかかわること」と強硬に反対しています。

◆それでは、ウルグアイが一枚岩なのかというと、これが微妙なところです。まず、同席していたガルガノ外相は、アルゼンチンによる道路封鎖についてはアストリ大臣と同調していましたが、(3)については個人的には反対しています。そのことは、彼が対米FTAに最後まで反対していたことからも類推できますし、実際に今回の会議でも域外の通商協定に対しては及び腰の発言を滲ませています。また、バスケス大統領がアストリ大臣並みに覚悟を決めたのかというと不明です。昨年9月にブラジルで行われたウルグアイ・ブラジル首脳会議において、バスケス大統領は「対外共通関税の原則をいじくらない中での対米FTA」という矛盾に近いような発言をしています(関連ブログは2006年9月11日付を参考)。

◆ウルグアイのメルコスール不信は日々強くなっていますし、今月9日付にも書きましたが、アストリ経済財務相はチリとのFTAの可能性など、次の一手を考えています。ただし、一方では、同相としては、現実的なアプローチとして、2007年上半期の議長国が同じメルコスール域内小国のパラグアイであることに期待をしており、同期間で何とかウルグアイの主張を反映させていきたいと考えている様子です。ウルグアイがどこまで本気かについては、来月リオデジャネイロで行われるメルコスール首脳会議を見てみると良いのかもしれません。
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