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◆ウルグアイの外交を考える上で考慮しておきたい一つに米国との関係があります。ウルグアイは左派政権であり、その支持層又は与党政治家のなかには旧来の反米イデオロギーに凝り固まった集団がいます。ただし、南米の左派政権のなかでウルグアイは総じて米国と友好的であり、昨年にはバスケス大統領がFTAを締結する意思を表明する直前までいったことは記憶に新しいところです。

◆7月7日付の当地紙エル・パイスでは、「ウルグアイと米国との関係の再開」という切り口から今後米国要人が相次いでウルグアイを訪問することが報じられています。具体的には、7月10日にバーンズ国務次官、7月12日にポールソン財務長官、9月にはグティエレス商務長官といったところです。また、これとは別に8月には企業団体でもあるカウンシル・オブ・ザ・アメリカズがモンテビデオで会議を開催するとのことで、米国企業を含めた有識者等が集まることが期待されています。これら重層的なコンタクトが図られることがウルグアイ外務省及び現地米国大使館からエル・パイス紙に説明があったとのこと。

◆7月に相次いで行われる米国政府要人の訪問については、ウルグアイだけではなく、他にもチリとブラジルが予定されるとの報道がされています。それらはいずれも米国にとって南米「友好国」と位置づけられており、既に確固とした絆が構築されたコロンビアに次ぐ戦略的関係強化対象国として、継続的な交流を図られていると見られます。なかでもウルグアイは、3月にブッシュ大統領がウルグアイ訪問を果たしており、政治的且つ経済的な関係構築へのフォローアップの意味合いが含まれていると報じられています。なお、両要人が訪問時には、いずれもバスケス大統領との会談が予定されています。

◆これまで、3月のブッシュ大統領のウルグアイ訪問のフォローアップの意味合いからすると、ウルグアイは米国に対してエタノール及びソフトウェアの面での関係深化を展開しています。前者については、6月にレプラ工業相がセンディックANCAP(石油公社)副総裁及びトリウンフォ工業省局長を連れて米国3大学でエタノール精製技術を見聞したと報じられています。米国と南米とのエタノール分野での協力関係については、既に米国とブラジルという大きな柱が存在していますが、ウルグアイもその柱に付随するような戦略を進めています。

◆それでは、バスケス政権発足以降のウルグアイ・米国二国間関係強化が実績となって現れているかというと、まだ顕在化していません。ウルグアイと米国との関係にはブームのようなものがあり、2005年にウルグアイ牛肉の対米輸出が好調であったときには、ウルグアイの輸出先の第1位が米国になるということもありました。それまでのメルコスール重視の貿易であったウルグアイにとっては転換点とも解釈できる事象であって、その翌年である2006年に米国とのFTAを模索して、その勢いを拡大しようとする動きがあったことも納得のいくことでした。

◆ところが、2006年のFTAへの動きについては与党内での大きな反発があり、与党はFTA推進派と反対派で二分化の様相を呈しました。そのような最中、中立を保っていたバスケス大統領はワシントンで開催されたカウンシル・オブ・ザ・アメリカズの席で「FTAという列車に乗り遅れてはいけない」と述べ、推進派が勝利したような展開になりました。それまでFTA協議開始に懐疑的であった米国政府もバスケス発言をもってウルグアイ政府のFTAへの本気度を確認したように見受けられました。

◆ところがFTA協議は開始直前にバスケス大統領が拒否することを自ら表明。米国政府は冷や水を掛けられることになりました。それから、2007年に入って、両国間ではTIFA(貿易投資枠組み協定)を締結し、ブッシュ大統領もウルグアイを訪問しましたが、それらをもってしても貿易額に何らかの影響を与えるものにはなっていませんし、2006年のウルグアイの輸出先第1位は再びブラジルになっていますし、今年の上半期の数字を見ても、その傾向は変わっていません。

◆これら両国の動きをどのように見るか。一つは、ウルグアイは通商面における米国市場を期待しており、米国はウルグアイの南米における位置づけ(左派ではあるが親米)を評価しているという両方の思惑が合致しているという見方です。つまり、両国は未来志向的に構えており、即効薬ではないものの、現時点では基盤整備をしっかりとさせて将来の貿易と投資の拡大に備えるといったものです。これがメディア等の一般的な見方であり、その原則で推進派と見られているアストリ経済財務相(写真)やレプラ工業相は動いていると見立てています。

◆ただし、そのような見立てをウルグアイ側の一方的な願望又は「楽観論」と見る向きも払拭できていません。一つには、やはりバスケス大統領の朝令暮改に近かったFTA協議への姿勢は米国政府に不信感を与えています。そして、メディア辺りが見立てている米国にとってのウルグアイの戦略的重要性も以前ほど高くないでしょう。一つには米国とブラジルの利害が「反チャベス」というテーマで一致しており、経済面でエタノールという大きな柱が構築されたことで、米国は急速にブラジルと接近しており、米国にとってのウルグアイの役割は大きく低下したと考えることができます。

◆そのような流れは恐らくFTA推進派が一番肌で感じているところであり、流れを止めないためにレプラ工業相などは積極的に米国訪問や関係者とのコンタクトを図っていると見ることができます。つまり、昨今の両国間の交流の多さは、良い傾向の裏づけではなく、悪い傾向に流れないための危機管理という見方も可能になります。実際に、米国による対ウルグアイ投資について具体的な案件が出てきませんし(むしろ米国企業による投資計画の縮小が出る始末)、FTA反対派の一部からはTIFAという枠組みを設定しても何の意味もないと見透かされている始末です。

◆一度失ってしまった米国の信頼をどのように回復するのか。実はウルグアイ政府の大部分及びメディアは、昨年9月のFTA協議拒否が大きな潮目になっており、その表層的な交流の拡大に目を奪われてしまって、米国が先の「楽観論」に依拠していないことに気が付いていないかもしれません。両国政府にとって中長期的な目標に対する共通認識が出来ていないような気もします。ただし、短期的には、2009年の大統領選が絡まってくるわけで、米国政府は当面親米派でもあるFTA推進派(アストリ経済財務相)に対して実績を与え続けるという策しかなく、それを当座の共通認識と呼ぶことは可能なのかもしれません。
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