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◆先週、ブラジルとウルグアイ両国のメディアで、ブラジル企業Camil Alimentoがウルグアイ最大のコメ輸出企業サマン社(Saman)を買収することで合意したという記事が流れていました。両者は現在90日間のデューデリジェンスの最中とのこと。債務も全部引き取る契約内容になっているようで、売却金額は1.0~1.6億ドル(ブラジル・メディア)とも1.1億ドル(ウルグアイ・メディア)とも伝えられています。この場合、ウルグアイの方が情報に対する脇が甘いので、後者の線が近いでしょう。

◆恐らくウルグアイ経済をフォローしている人々にとってサマン社の売却は驚きをもって聞いたのかもしれません。というのも、「ウルグアイの大企業は国営企業のこと」という企業文化があるなかで、サマン社は一族経営ではありながらも立派な民間企業として優秀な印象を与えてきました。「たかだがコメの輸出企業・・・」と思われるかもしれませんが、ウルグアイは世界第7位のコメ輸出大国であり、その輸出量の半分以上がサマン社が取り仕切っています。

◆ここの一族の親分、フェレス氏がサマン社を切り盛りしていましたが、ブラジルの現地紙によれば、この分野からは退出するとのこと。それが本当であれば、時代の変遷を感じさせます。産業界の重鎮で、国内政治にも一定の影響力があり、例えばウルグアイ・ペソ高が続いた時期には、彼が行き過ぎを懸念するコメントを発し、それだけで翌日の新聞紙面になるという重みがありました。そして、90年代後半にはウルグアイ米の対日市場開放の推進役を担っていたなど、日本とも浅からぬ関係があります。個人的にフェレス氏には何度か会ったことがありますが、貫禄があり、毎回緊張した記憶があります。

◆さて、今回のCamil Alimentoによる買収ですが、一般的に、ブラジルのレアル高によってウルグアイの資産を購入しやすくなっている状況があります。例えば、2005年1月の1レアル=8.6ペソでしたが、現在は11.0ペソまでペソ安が進んでいます。ブラジル企業にとってはウルグアイの有望企業を買収するには格好の時期ですし、更に買収先がブラジル向けの産品を扱っていれば、二重に嬉しかったりします。例えば、今回のコメですが、ウルグアイ米の95%は輸出用ですし、その半分近くはブラジル向けであったりします。Camil Alimentoにとっては債務の引き取りがあっても美味しい買い物になります。

◆一方、サマン社が売る気になった理由ですが、予想するに同社が目指したコメの輸出多角化が行き詰ったのかもしれません。サマン社にとっても輸出市場の「脱ブラジル化」が課題になっていたと思われるなか、イラン向けなども模索した時期を経て、現在は、チリ、EUにも輸出しているそうですが、やはり中心がブラジルであることに変わりないようです。

◆ところが、ブラジルへのコメの輸出に際しては、ブラジル側税関のトラック通過拒否などの非関税障壁が顕在化しており、ここ数年を見ても、ブラジル向けコメ輸出は政治問題になり、サマン社にとってはリスクの高いビジネスに変質していたように見受けられます。今回の売却によって、ウルグアイ産のコメ輸出が単純な二国間の政治問題ではなく、Camil Alimentoによるブラジル政府(又はリオ・グランデ・ド・スル州政府)へのロビイングの結果如何という新しい方程式が加わることでしょう。

◆これに似た構図であるのがウルグアイの主要産業である牛肉です。精肉工場に米国資本が参入した結果、2003年の米国によるウルグアイ産牛肉輸入解禁がもたらされるといった過去がありました。更に、それを切っ掛けとしてウルグアイ経済は大きく立ち直り、現在に至るまで、毎年過去最高の輸出額を更新し続けています。また、今後も含めた米国への牛肉輸出の拡大は、ウルグアイ政府だけではなく、米国資本による米国議会等へのロビイングが変数になっています

◆以上の傾向に対して、ウルグアイ政府は、資本の出所がどこであったとしても、ウルグアイ経済に資するのであれば、外資は歓迎といったスタンスでしょう。また、これが持て囃されるのも、マクロ経済が好調な今だからということでしょう。
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◆8月上旬から中旬にかけて、ベネズエラのチャベス大統領は、南米4カ国(アルゼンチン、ウルグアイ、ボリビア、エクアドル)を歴訪していました。一部報道では同大統領の「石油マネー外交」と呼ばれているとともに、どちらかというとベネズエラに好意的な急進左派の大統領がいるような国々を選んでいるような印象も受けました。今回行われたチャベス大統領の歴訪の意味とウルグアイのスタンスについて若干考えてみましょう。

◆8月7日、チャベス大統領はウルグアイを訪問し、バスケス大統領と会談しました。会談後の記者会見の席で両国は幾つかの経済協定を締結したことを発表しました。その中には、ベネズエラ産石油の購入にかかる支払方法やガス・プラント建設にかかるものも含まれます。

◆既に両国の関係では、ベネズエラ・アルゼンチン・ウルグアイ3カ国の国営石油公社の出資によるベネズエラ・オリノコ流域開発及び石油採掘を目的とした共同事業会社の設立構想を進めてきています。ウルグアイは、同プロジェクトが推進されることによって石油高騰による財政負担を軽減させ、同じくベネズエラと共に進める精油所拡張プロジェクト実現によって石油製品の輸出国になる可能性も出てくることを期待しています。

◆このような動きに対して、数ヶ月前、ウルグアイの議会では、野党がベネズエラとの石油ビジネスの偏重に対して警鐘を鳴らしていましたが、現在の野党の非力からすると、影響は限定的でしょう。また、バスケス政権としては、ベネズエラが安定的な供給を約束し、更に支払方法においても便宜を図ると協定で決めていることもあって、前のめり姿勢になっているのが実情です。

◆実は、このような姿勢は、今回チャベス大統領が訪問する他の国々の首脳も同様です。ベネズエラは、アルゼンチンに対してガス・プラント建設による天然ガスの安定供給に一肌脱ごうとしていますし、エクアドルに対して精油所の改修工事への支援を申し出ています。また、ボリビアには国営ガス会社との共同事業を提案すると報じられています。

◆これらを見ても判るように、チャベス大統領の最大の武器は、石油及び天然ガスをお題目にしながら石油マネーを原資とした上での積極型投資です。数年前に南米を席巻した中国の空手形と異なり、ベネズエラの場合は実現性が高いと思われます。チャベス大統領はベネズエラ国営石油公社(PDVSA)をしっかりと握っており、今回の歴訪でもいずれの局面にも同社が関与していました。

◆チャベス大統領がこのように南米大陸を向き始めたのはごく最近で、2001年以降だったと記憶します。石油価格の高騰と米国への不信が同じタイミングで起きていることを政治的に利用しているのがチャベス大統領であるという構図が見て取れます。また、今回訪問を受けた各国では、総じてチャベス的な急進左派への信条面でのシンパシーがあるように見受けられますが、既に見てきた通り、各国とも石油・ガス分野において弱みがあり、ベネズエラからの積極的な投資は喉から手が出るほど欲しがっています。その意味で、関係各国は信条面での共通認識があることは間違いないとしても、凡そ打算的な意味合いも含まれていることも考慮してよいでしょう。

◆そのなかで、チャベス大統領の訪問国の中でもっとも打算の色が濃いのがウルグアイです。同国のバスケス大統領の信条は穏健左派であり、チャベス大統領の思想とは相容れません。それにも関わらず、チャベス大統領の急進左派諸国歴訪に華を添えているのは、ウルグアイにおいて石油と天然ガスの安定供給が不可欠であるという政府の認識があるためです。これまで天然ガスをアルゼンチンに依存してきたが、同国が頼りにならないことを痛感し、石油でも高騰を前にして安く手に入れる方法を見つけ出す必要に差し迫っていました。それらの問題を解決させてくれるパートナーがいれば、それがブラジルでも米国でもベネズエラでも構わないというのがウルグアイの考え方です。

◆また、7日に行われた両国首脳記者会見では、バスケス大統領から「早い段階でベネズエラのメルコスール正式加盟が決まることを望む」と表明し、貸しを作っています。同大統領としても、チャベス大統領の信条に惚れこんでそのような声明を出しているわけではありません。ベネズエラが正式加盟することを通じてメルコスールの不均衡性(ブラジル・アルゼンチン主導型の運営)に一石を投じる役割を目論んでいるためです。小国ならでは、といった動き方をしていると改めて実感します。
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◆日本と南米南部のつながりはあまり報道されないものですが、8月11日付毎日新聞では、「地上デジタル放送:日本、南米に活路 世界は欧州方式優勢」というタイトルで地デジ日本方式の南米展開の記事が出ていました。

「総務相「トップセールス」 
日米欧が開発途上国などに、それぞれの放送方式の採用を求めている地上デジタル放送の国際標準化問題で、日本は8月、まだ放送方式を決めていない南米のチリ、アルゼンチンなどへ官民合同の代表団を送って、日本方式の採用を働き掛ける。日本方式は「技術的には最も進んでいる」とされるが、国際標準化競争では劣勢に立たされており、南米諸国で採用されるかが失地回復のカギになっている。【尾村洋介】
 地上デジタル放送の国際標準は日本・欧州・米国の3方式あるが、採用国数では欧州方式が30カ国以上と圧倒的に優勢に立っている。
 日本がデジタル放送で後れをとったのは、それまで優位に立っていた高画質のアナログのハイビジョンにこだわって、ITU(国際電気通信連合)で国際標準として承認される時期が遅れたためだ。欧州方式や米国方式は97年に承認され、米国とイギリスでは98年にデジタル放送が始まったのに対し、日本方式が承認されたのは00年で、デジタル放送開始も03年12月だった。
ただ、日本方式はNHK、民放、メーカーなど日本の産業界全体で開発したもので、同一の周波数帯でテレビ向けと携帯端末へのワンセグ放送が可能となるな ど、技術的には大きな利点がある。ブラジルが採用を決定した際には、日本方式の技術力の高さをPRした。さらには、放送に必要な特許の一部について特許料 支払いを免除する「特典」も供与した。
 今回の訪問では、菅義偉総務相のほか、松下電器産業、シャープ、東芝、NEC、ソニーと、通信・放送関連 の標準化団体の電波産業会の役員らも同行し16~21日の6日間、ブラジルのほか、チリ、アルゼンチンを回る。菅総務相は、各国の通信放送の担当相と会談 する。チリ、アルゼンチンに対しても、ブラジルと同様の「特典」を提示する予定だ。放送方式が採用されると、その後のビジネスでも優位に立てる。」


◆この記事ですが、総務省番記者によって書かれたようで、情報源は総務省の担当部局からであると読み解くことができます。従って、地デジの国際展開のイントロとしては親切な説明がしてあるのですが、現地情勢について非常に弱い気がしました。では、南米南部2カ国がどうなっているのでしょうか。

◆まずチリですが、今年3月末まで方式を決定すると言われていましたが、3月に内閣改造で担当大臣が交代したことで、決定が延期されたと報じられています。ただし、現地紙を読めば判るのですが、チリの場合は3月末の時点で米国方式又は欧州方式のいずれかに決定するだろうとの見通しになっており、日本方式は蚊帳の外に置かれている状況でした。

◆次にアルゼンチンですが、10月に行われる大統領選挙との関係で決定を先延ばしにしているとの報道が出ています。また、同国では90年代末に当時のメネム政権が米国方式を決定することを決めており、ポイントは欧州勢の大きな影響力が従来の決定を覆すことができるかと言われています。この場合も日本方式は彼らと比べて周回遅れのような気がしますし、毎日新聞にあるような「失地回復のカギ」として扱うにはかなり劣勢のような気がします。

◆そして、南米南部の日本勢を象徴しかねない事態として、ウルグアイの主要紙El Pais紙8月7日付朝刊は「ウルグアイ政府は欧州方式を採用へ」と報じていました。これが本当の話だと、南米ではブラジルに続いて2カ国目の地デジ方式決定であり、欧州勢の挽回の兆しとなろうとしています。

◆では、ウルグアイの主要紙El Pais紙8月7日付朝刊の「ウルグアイ政府は欧州方式を採用へ」という記事ですが、もう少し詳しく見てみましょう。

◆同記事を要約すると、政府高官の発言として、ウルグアイ政府は地デジ放送方式を欧州方式に決めるだろうとしています。技術的な見地から日・米・欧のいずれの方式にも決定的な差はないなかで、「ウルグアイにとってもっとも適していた」のが欧州方式であったとのこと。欧州方式導入にあたっては、EUからソフトウェア及びコンテンツ産業の中小企業育成支援を行われる予定と報じられています。

◆ウルグアイの地デジ戦線ですが、これまでの同国主要紙によれば、日本方式と欧州方式の戦いと伝えており、ようやく最近になって米国方式関係者が同方式にかかるセミナーを大々的に開催するなど本腰を入れようとしていました。また、日本方式を採用したブラジル政府は技術協力などの申し出を2月末に行っており、同じタイミングで日本から総務省総務審議官がウルグアイを訪問し、同国政府関係者に売り込みを図るなど(2月28日付日本経済新聞)、建設的且つ効果的に工作が進められていました。個人的な印象ですが、「劣勢」と伝えられる地デジ戦線の南米南部3カ国の中で、最も日本方式採用に近い国であったと思われました。

◆では、このタイミングでウルグアイが欧州方式を選んだ理由は何かということですが、一つには日本勢が他の南米諸国の様子を見ながら時間を掛け過ぎたということではないでしょうか。ウルグアイについては、既に機が熟していて先行逃げ切りが可能であった中で、どうも日本勢が拱いていたような構図が見えてきます。

◆まず、現地紙などをフォローしますと、既に昨年11月、ウルグアイの地デジ方式決定に向けた「交渉役」であるレプラ工業相が訪日をし、菅総務相と会談を行っています。ウルグアイに帰国した際のインタビューでレプラ工業相は日本方式の技術面で非常に高い評価をしていました。レプラ工業相訪日を受けての総務省総務審議官ウルグアイ訪問でしたから、日本政府は戦略的に動いていたのかもしれません。

◆そして、ウルグアイが地デジ方式決定の際に無視できない存在であったのがブラジルでした。南米南部各国が地デジ方式を真剣に検討し始めたのは、ブラジル政府が日本方式を決定して昨年6月以降でした。レプラ工業相をはじめとしたウルグアイ政府幹部が考えたであろうことは次の点であったと推測できます。それは、「どの方式であれば、ウルグアイは勝ち馬に乗れるのか?」ということです。

◆具体的には、ブラジルの次に方式を決定することを通じて、先行者のメリットを享受しようということであり、南米におけるソフトウェアやコンテンツ系の集積地を目指すという国策に適う選択をしようと考えていた節があります。ブラジルに続いて日本方式を採用した場合には、南米のスペイン語圏への地デジにかかるソフトウェアやコンテンツ系の輸出拠点になることが可能になるでしょうし(ポルトガル語のブラジルとの棲み分けは出来ていることでしょう)、欧州方式や米国方式であったとしても似た戦略を推し進めることが可能になります。いずれにしても、ウルグアイにとっては、先行することを通じてしかこの戦略を達成することができません。

◆また、「勝ち馬に乗る」というのは、ウルグアイ政府に刷り込まれているDNAです。これはブラジルとアルゼンチンという大国の間に挟まれた小国の宿命であり、生きる知恵となっています。例えば、昨年騒がれていた米国とのFTA交渉をするかどうかの議論でも、ウルグアイ政府高官の頭にあったのは、どれが「勝ち馬」なのかという点であったと思われます。それは、「米国」か「メルコスール」かであり、バスケス大統領は土壇場で恥も外聞も捨てて「メルコスール」を選んでいます。この小国の知恵ですが、なかなか深いものがあります。

◆このような見立てからすると、ウルグアイにとって日本やブラジルが優勢であったと見ていたのは、4月頃までであったと思われます。つまり、それまでに日本側から明確なコミットを出すことができれば、ウルグアイは難なく日本方式を選んだのではないでしょうか。ところが、時間の経過と共に欧州勢は着実に挽回してきており、3月時点にはアルゼンチンやチリでは欧州方式が優勢と伝えられるに至って、ウルグアイは日本方式が南米基準となる勝ち馬であることを疑い始めました。

◆その後、ウルグアイの戦線は、欧州のペースに嵌っていったように見受けられます。特に5月にレプラ工業相がノキア社の招待でフィンランドを訪れましたが、その際に欧州側から何らかのコミットが伝えられたと見て良いでしょう。この訪問には、ベルガラ経済財務次官が同行していますが、彼はウルグアイ通信サービス規制機関(URSEC)の前総裁であるとともにバスケス政権の実力者であるアストリ経済財務相の右腕的な存在。ノキア社の目的は明らかだったでしょう。

◆その後、新聞紙面に地デジの文字が飾ることもなかったのですが、久しぶりに出てきた報道が期せずして日本とウルグアイ両国からのものでした。日本側は菅総務相が南米南部に訪問することを決定しながらも有望であったウルグアイには訪問しないことを決めたということであり、ウルグアイ側は日本方式を切り捨てて欧州方式を採用予定であるということです。どうにも、それはどこかで両国間のボタンの掛け違いがあったことを象徴するかのようなタイミングの記事でした。
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