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◆9月15日に発売されたジェトロ・センサー10月号でウルグアイの林産ビジネスに関する拙文(「新たな対日有望産品としての木材」)を執筆しましたので、これから3回に分けて掲載します。最近日本企業の進出の兆しが見えてきているウルグアイ。日本の反対側で日本がどのように林産ビジネスに関与しているかを知る上でも参考になるかと思います。

(拙文要旨)
ウルグアイでは,輸出主導型の経済成長が続き,2007年も5%台の経済成長が見込まれる。ロッシ運輸公共事業相は「かつてないほど投資に適した環境」と自負する。その中で注目されているのが林産業だ。事実,欧米諸国は10億ドル規模の大型投資を相次いで発表している。ウルグアイの木材が南米での新しい戦略商品として位置付けられる日も遠くなさそうだ。ウルグアイは、政治面でも腐敗防止に重点を置いており、その透明性の高さには諸外国からの信頼が厚い。

林業を非伝統産業の柱に
 ウルグアイは、南米の大国・ブラジルとアルゼンチンに挟まれた人口約350万人の国である。今から5年前,アルゼンチン危機に端を発した「100年に1度」といわれた未曾有の経済危機に直面。しかし翌2003年の後半からはプラス成長に転じ,2004年に12.3%,2005年に6.6%,2006年に7.0%の経済成長を達成するなど見事に立ち直った。2007年も5.5%の成長が見込まれる。持続的な経済成長の根本となっているのは,投資誘致の成功と輸出の拡大である。

 投資誘致は,2005年に就任したバスケス大統領の政策課題の一つ。バジェ前政権時(2000~2004年)には年平均で約3億ドルであった対内直接投資(FDI)は,2005年には前年比2.3倍の7億1,500万ドル,2006年には同1.6倍の11億6400万ドルと順調に伸びる。

 輸出額も,2005年16.2%,2006年15.7%と,バスケス政権下で2ケタ成長が続く。1990年代後半には,輸出の5割強はブラジルやアルゼンチンと,メルコスール加盟国に偏重していた。それが、両国の通貨切り下げなどを機に,バジェ前政権後期から市場の多角化路線へと転換し,米国や欧州への販路拡大を図った。その結果,2007年1~5月の輸出先シェアは,メルコスール25.4%,北米(米国,カナダ,メキシコ)20.0%,EU19.7%,アジア9.1%と,バランスが取れたものになった。

 経済成長の牽引役となった投資誘致と輸出をさらに拡大するための次の一手として、ウルグアイ政府は、従来の牛肉、皮革、羊毛といった伝統産品から非伝統産品重視へのシフトを進める。具体的には、林産業に注目する。


外資も相次いで参入
 ここ数年、ウルグアイは木材の供給基地として注目度が高まる。2002年までは1億ドルを下回っていた林産物輸出額は、2004年には約1億5,000万ドルになり、2006年には2億5,000万ドルに達する勢いだ。2010年には7億ドルに達する有望産業となる可能性がある。

 特にユーカリ材は、セルロースや木材チップとして輸出される。セルロース製造には,フィンランド系のボトニア社,スペイン系のエンセ社,フィンランド・スウェーデン系のストーラ・エンソ社が相次いで10億ドル規模の投資を発表している。木材チップは既に2004年から日本向けに輸出されており,現在では対日輸出額の約8割を占めるまでに拡大した。これまで木材チップの輸出先としては日本とスペインの2国向けがほとんど占めていたが,2007年からは北欧勢が新規参入。ウルグアイ産チップの争奪競争が激化しそうだ。

 欧米諸国がウルグアイを林産ビジネスの新たな拠点として注目し始めたのは、同国には開拓する土地が豊富にあり、投資コストに十分に見合う生産物が得られると考えられているためだ。

 2007年3月、ニン・ノボア副大統領は日本人ビジネス関係者に対して、「ウルグアイの国土1,700万ヘクタールのうち、1,500万ヘクタールは農地であり、そのうち300万ヘクタールは植林地」と紹介した。さらに、「約100万ヘクタールが植林予定地として計画されており、まだまだ植林地には余裕がある」と可能性をアピールした。ウルグアイの将来については「これまでの牧畜業を中心とした国から、林産業や農業を軸とした国に変わるだろう」と方向転換を明らかにしている。

 同副大統領の言葉を待つまでもなく、欧米諸国は近年の林産ビジネスに対して積極的に動く。例えば、米国の大学基金あるいは年金基金がウルグアイの植林予定地を購入する動きが盛んになっているという。これらの資金を通じて土地を購入、ユーカリなどの植林を行い、7~8年後に材木などとして売り、投下資金を回収する、というビジネスモデルが成立している。

 ウルグアイの場合、ユーカリの生育期間が他の産地と比べて早く、短期間で商品になるメリットがあるといわれる。さらに、ウルグアイでは、自然林がそもそも少なく、国土の大半が広大な平原であるため、開墾し尽くされていない。これが、植林には最適とされている。


林業育成に日本も古くから関与
 植林事業は京都メカニズムに基づくクリーン開発メカニズム(CDM)プロジェクトとしても活用できる。これまでもスペインなどの欧州諸国はウルグアイに触手を伸ばしてきていたが、日本も、環境省が2007年度 CDM/JI事業調査においてウルグアイ案件を採択するなど、植林地としての可能性に注目し始めている。

 歴史的にも、ウルグアイの林産業の基礎は70年代後半からの国際協力事業団(現・国際協力機構:JICA)を通じた日本の協力により築かれたという経緯がある。それが現在では、同国は早成樹種の林業・林産のモデル国として世界各国に知られるまでになった。日本にとって、ウルグアイの林業ビジネスへの参入は、両国間協力の成果を実感するということにもなろう。

 可能性を秘めるウルグアイの林産業だが、大きな課題が二つある。

 一つは、国内インフラ整備である。特にぜい弱なのが港湾と鉄道である。例えば、モンテビデオ港では水深10メートルを確保が難しく、大型チップ船が入港できない。このため日系企業は木材チップの対日輸出拡大に当たり輸送コスト低減が図れないという事態に直面する。国際協力銀行(JBIC)が、2007年3月に発行されたウルグアイ政府による300億円のサムライ債(円建て外債)発行の保証の一環として、モンテビデオ港や鉄道インフラ整備への融資を行うことになったのは、このような対日ビジネス促進の弊害を除去する目的もある。2010年をめどに、まずはモンテビデオ港に12メートルのふ頭が整備される予定だ。

 もう一つは、アルゼンチンとボトニア社の間で緊張関係が続いていることだ。ボトニア社がアルゼンチン国境沿いに流れるウルグアイ川岸に工場を建設していることに対してアルゼンチンの環境団体など反対派が二国間の道路封鎖を行うといった抗議活動を続け、アルゼンチン政府も操業停止を求める事態になっている。現在、外交交渉や国際司法裁判所を通じて解決の糸口を見いだそうとしているが、この問題の行方が今後の林産業ビジネスに微妙な影を落とす可能性もありそうだ。

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◆最近あまりに地デジ(地上デジタルテレビ放送)の話題ばかりに偏重していると言われそうなので、程々にしたいと思っていますが、8月27日、ウルグアイ政府が大統領令を通じて地デジ欧州方式に決定したことについて、時事通信が9月6日付で次のように報じていたため、備忘録として書きたいと思います。

<ウルグアイは欧州規格=南米での日本方式普及に打撃も-地デジ>
 【サンパウロ5日時事】ウルグアイのレプラ産業・エネルギー・鉱業相は5日、同国が日本、欧州、米国の3方式の中から選定作業を進めていたテレビの地上デジタル放送規格について、「われわれにとって、より有益な提案を受けた」として欧州方式を採用すると発表した。南米で地デジ規格が決定したのは、日本方式が採用されたブラジルに次いで2国目。
 南米では歴史的につながりの深い欧州方式が優勢とみられており、ブラジルは日本政府や業界団体と組んで、挽回(ばんかい)を図っている。先月南米を訪れた当時の菅義偉総務相はアルゼンチン、チリを回ってトップセールスを行ったが、ウルグアイが欧州方式を採用したことで、日本方式をめぐる環境は厳しさを増しそうだ。


◆はじめに、ウルグアイの決定のインパクトがどれほど強いのかについて考えていった際、実は時事通信が推測するのは誇張であって、インパクトそのものは限定的ではないかというのが個人的な感想です。今回のウルグアイの決定が意味することは、メルコスール(南米南部共同市場)域内での統一方式の実現をウルグアイ自らが改めて捨てたということであり、南米全体に与えるほどの影響力はありません(だから、8月に菅前総務相が訪問しなかったのでしょうし)。

◆ウルグアイが欧州方式を決めても限定的との認識は、先日菅前総務相がブラジル(一部「伯」と略します)の通信相と会談したときの報道を見ても判ります。確か、これも時事通信が丁寧に報道してくれたと記憶していますが、日伯両国の南米戦略においてウルグアイは既に捨て駒であり、他に重点国を念頭に置いているように思われます。具体的にはコロンビアやペルーなどの太平洋岸諸国といったところでしょう。

◆基本的な知識として、南米の地デジの展開ですが、南米全体が同じタイミングで一斉にスタートしたものではなく、各国で進み具合が微妙に異なっています。まず先行したのはブラジルです。その後がアルゼンチン、チリ、ウルグアイのブロック(便宜的に「第一ブロック」としましょう)。その次がペルー、エクアドル、コロンビア、ベネズエラのブロック(「第二ブロック」)。そして、地デジそのものへの関心が総じて低かったボリビアとパラグアイというブロック(「第三ブロック」)に分かれると認識すると判りやすいかもしれません。

◆ブラジルとしては、方式決定を先行したことで南米内の地デジ方式のデファクト・スタンダードを築こうとしたわけですが、例えばメルコスール加盟国に相談することなく独断で決定したため、同じ加盟国のアルゼンチン辺りからは反発を受けました。そもそもメルコスール統一方式という機運は希薄であり、ウルグアイとしても表向きはメルコスールの一本化が望ましいとはいっていますが、地デジに関してはそこまでの拘りを持ち合わせていませんでした。

◆8月の菅前総務相によるブラジル訪問によって、日伯共闘の機運が更に高まろうとしているのですが、既に「第一ブロック」で共闘を展開するには、時既に遅しの感があることを両国は十分認識しているでしょう。時事通信が伝える「歴史的につながりの深い欧州」の影響を一番受けるのは「第一ブロック」なわけで、アルゼンチン及びチリについては、ウルグアイ同様欧州方式になる可能性があるでしょう。

◆日本政府が日伯連合として南米戦略を図っていく際に、「第一ブロック」にて形成が不利である要因は、既述の「欧州の影響力の大きさ」の他に、「戦線立ち上げの遅さ」と「ブラジルの影響力の限界」があるように思われます。特に後者について、アルゼンチンは自国のプライドを賭けてまでブラジルの独断に従おうとはしないでしょうし、チリは政治力学よりも各方式の中身と条件を優先するスマートがあったりします。それら要素にブラジルの政治力を介入させることは限定的ではないかと思われます。

◆日本政府は先日訪日したバチェレ・チリ大統領との共同コミュニケで地デジ方式を盛り込むなど引き続き積極的に展開を図ろうとしており、アルゼンチンよりも日本方式が採用される可能性を残そうとしていますが、ブラジル政府の本心は苦手な「第一ブロック」よりも可能性の高い「第二ブロック」に期待をかけたいと思っているのではないでしょうか。果たして、両国の共闘が効果的に展開されるかどうかの真価が試されるのは「第二ブロック」の結果を見ればわかるのではないかと思っています。

◆冒頭の確認になりますが、日伯両政府ともウルグアイ戦線での敗北は織り込み済みであり、今後にしこりを残すことはないでしょう。今後のポイントは「第一ブロック」でどこまで現在の劣勢を挽回できるかという点であり、更に「第二ブロック」以降如何に効果的に両国が共闘して日本方式(ブラジルは「ブラジル方式」といっていますが)を採用させていくかという前を向いた姿勢になっているのではないかと思われます。時事通信が伝える「日本方式をめぐる環境は厳しさ」について、日伯両国の当事者は思ったよりも楽観的に構えているような気がします。
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