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◆4月20日、パラグアイで大統領選挙が行われ、聖職者であるフェルナンド・ルゴ氏(56)が当選しました。開票率92%の現時点で、ルゴ氏40.8%、オベラル女史(前教育相・与党)30.7%、オビエド氏(元陸軍司令官)21.9%という結果です。既に南米に関心を持っている方々は新聞等で目を通しているでしょうが、61年ぶりに与党・コロラド党が敗北し、南米で新たに中道左派政権が誕生する見通しになることが伝えられています。ここでは、今回の結果が国内外に与える影響について考えてみます。

◆まず、今回のルゴ氏の当選は、ドゥアルデ現政権の無能さ、大統領選挙戦における与党内の分裂、貧困による不満層の発露など言われています。国内外のメディアがそのような要因を「南米大陸の特徴」と捉えて、南米における左派旋風が未だに続いていると書きたくなる気持ちはわからないでもありませんが、実際は、貧困は貧困でも「政治の貧困」に対する国民の不信任が中道左派という受け皿に取って代わっていると見るべきでしょう。同じ現象については、2005年に既に同じ南米であるウルグアイでも起きていました。

◆ここで確認したいのは、右か左かということではなく、選挙が真っ当に行われたということです。パラグアイにおける前回の大統領選挙では、事前の世論調査でリードしていた野党候補が直前になって「コロラド党の組織力」によって逆転を許すということがありました。今回の大統領選における世論調査でも常にルゴ氏がリードをしていましたが、有権者の心のどこかで前回に似たような「奇跡」が起きて、与党が結局は勝ってしまうのではないかといった諦念に近い感情がどこかしらにあったとも聞いています。その意味では、選挙の結果が既得権勢力にとってネガティブな世論調査結果に見合った形(その善し悪しはさておき)で反映されたことは、一つの成果なのではないかと思われます。

◆次に、今後のパラグアイを見る上で注目したいのは、「イタイプー条約」と「台湾との国交」の二つの「見直し」です。

◆まず、「イタイプー条約」について、パラグアイとブラジルは、両国国境沿いにあるイタイプー・ダムから作られる膨大な電力量を両国で折半し、小国であるパラグアイが需要の多いブラジルに安値(一説には市場コストのほぼ半額)で売却する取り決めを1970年代に行いました。今回の大統領選挙戦でルゴ氏は、同条約の見直しを主要な公約の一つにしており、当選後も同条約の不公平性を訴え、対話を開始したい意向を述べています。資源ナショナリズムの派生のような動きを見せている背景には、他の南米左派政権が国益の観点から外国企業又は他国政府と結んでいた既存の契約を半強制的に見直していることがあります。ただし、イタイプーの件では、電力の売却先がブラジルしかないような中で、果たしてパラグアイが望むような結果を得ることが出来るかは不明です。パラグアイとブラジル両国間関係では、これから一年間、この話題が中心になるのではないかと思われます。

◆むしろ、日本と大きく関わりがあるのは、後者の「台湾との国交」の見直しです。パラグアイは南米で唯一台湾と国交を結んでいる国です。ただし、そのこと自体に大きな意味はないのですが、パラグアイが中国と国交を結ぶようになった場合、メルコスール(南米南部共同体)と中国とのFTAに向けた動きが一気に加速する可能性があります。2004年頃、ブラジルやアルゼンチンなどでは胡錦濤国家主席訪問に合わせて、「中国フィーバー」に似たような空気に包まれていました。実際に、その頃の中国政府は市場経済国の認定と差し替えに大型投資の話(大風呂敷?)を数多く提案し、それら南米諸国は鵜呑みにしていました(その後、しっかりと学習はしていますが・・・)。

◆ただし、その興奮に似た空気に包まれた当時でも、メルコスールと中国のFTAの話は浮上しませんでした。その理由はパラグアイと中国の国交がないためです。パラグアイというハードルのお陰で、日本政府はメルコスールとのFTAの可能性の検討に緊急性を持たなくて済んできました。どちらかというと、メルコスールとEUのFTAの行方を見極めてから動こうかという悠長な姿勢であったように記憶しています。

◆今回のルゴ氏による台湾との国交見直し可能性発言が問いかけているものは、これ以上メルコスールとのFTAというテーマで日本政府が不作為を働くことは出来ないということでしょう。あまりに安穏としていると、いつの間にか中国が挽回してくるのではないかと思われます。確かに、ここ数年、中国からの輸入品に対してブラジル及びアルゼンチン政府は神経を尖らせていますが、さすがにあの巨大市場の魅力に対しては抗し難いところがあると思われます。今後パラグアイの議会が国交問題をどのように扱っていくかは見え難いですが、一つの転換点を迎えようとしていることは間違いないのではないでしょうか。
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