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日本製紙がウルグアイに本格進出

◆このブログで継続的に取り上げているベルガラ経済財務次官の訪日ですが、その成果について、2月29日付のEl Paisが伝えています。同記事は、地元の記者が同経済財務次官の帰国に合わせて、外信で伝えられていた内容を確認するというお得意の手法。ウルグアイの新聞社はさすがにお金がないので、このような方法で外信との差別化を図っています。ちなみに、今回の記者の一番の確認したかった内容は日本製紙が新たにウルグアイ向けに投資をするという事実関係だったでしょう。

◆ウルグアイにおける投資誘致の一番の目玉は製紙業です。一次産品からの最終製品までの流れでいけば、一番最初の材木から木材チップ、セルロース、紙パルプ、製紙ということになるでしょうが、外資が投資を試みているのは、その中でもセルロース工場の建設です。欧州勢ではBOTNIAが操業開始、ENCEが工場建設を開始、STORA-ENSOが土地購入を完了し、他にもポルトガルやアルゼンチン勢がそれぞれ10億ドル規模の投資を検討していると報じられています。

◆日本勢については、2004年から王子製紙と日本製紙が木材チップを調達することでウルグアイとの結びつきを強めてきました。その両社の一般的な傾向から比較すると、日本の近隣で材料を調達する王子製紙よりも遠隔地をも厭わずに調達を試みる日本製紙の方がそもそもウルグアイとの相性は良かったのかもしれません。また、これまでもコンスタントに対日輸出の実績も残し、2007年9月から駐在員事務所も開設している日本製紙は、今後のウルグアイとの関与の仕方について検討を重ねやすい環境にあったともいえるでしょう。

◆2月23日付のEl Paisの報道では、まるで日本製紙が製紙(又はセルロース)工場を建てるかのようなニュアンスで報じられていましたが、同月29日付のEl Paisの報道では、その点について、ベルガラ経済財務次官は、日本製紙が工場建設をコミットしたわけではないものの、既に土地や森林の購入などを進めていると抑え目ではあるものの、確実に日本企業がウルグアイに投資を行いつつあることを伝えています。

◆このベルガラ発言については、先走り報道ではないかとの見立ても出来るかもしれません。一般的に、ウルグアイの政府高官は地元メディアに馬鹿正直に話をする癖があって、オフレコの線引きの解釈が日本の企業関係者と異なる部分があるように思われます。憶測の域を出ませんが、今回の日本製紙のウルグアイ進出の話についても、ベルガラ経済財務次官が同社を訪問した際に同社幹部から現在そのように検討していますのでとオフレコ・ベースで話をしたのでしょうし、当然同社幹部はそのようなことが進行中のことであるので表にならないと思い込んだのでしょう。一方、ウルグアイの政府高官にとっては「これはオフレコだ」という念押しがない限りは情報の公開の裁量は自分にあると一般的に解釈します。

◆従って、今回の日本製紙の動きについて、ベルガラ経済財務次官は、日本訪問における一つの収穫であり、投資誘致を率先するバスケス政権の大きな成果の一つとして我慢できずにメディアに伝えてしまったというのが今回の事の顛末ではないかと見ています。実際、このような先走り報道は初めてではなく、他の日系企業のウルグアイ進出(又は計画)のケースでも垣間見られます。いずれも、情報が漏れた元はウルグアイ政府高官であり、グッド・ニュースを自らの手柄にしたいという誘惑から生じてしまっています。

◆日本製紙がベルガラ経済財務次官のお土産としてこのニュースを持ち帰っていただこうという意図で情報を提供したのであれば、それはそれで戦略性があって良かったのですが、限られた経験の中では、そのような戦略的なケースは稀有です。一般的には、相手国の政治家や政府高官の情報の取り扱い作法の認識不足が理由になっているような気がします。ウルグアイの場合、進出している日系企業が5社ですが、大方の企業は進出してまだ0.5~3年程度であり、そのようなウルグアイの政治家や政府高官の「お行儀」を理解することには困難があると思われます。

◆製紙業界で日本製紙が既にウルグアイの土地を購入していることが周知の事実であれば、今回のニュースもそれほどの価値はありません。ただ、木材チップを含めた製紙原料の欧州勢との奪い合いが近年熾烈になっている中で、アクシデントとして今回の情報が漏れてしまった場合、果たして今回のアクシデントをオール・ジャパンとして防ぐことができなかったのか考えてみても良いのかもしれません。一日系企業が「お行儀」を知らなかったでは済まないと思っています。