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◆28日の午前中、バスケス大統領(写真)は13人いる大臣のうち、8大臣を招集して、今後の米国との通商協定の枠組みについて協議しました。下馬評では、10月2~3日に開催されるウルグアイ・米国2国間協議会を前に、FTAに向けた最終的な調整を行う場と見られていました。

◆ところが、その昼に行われたバスケス大統領の記者会見の席では、同大統領自らから先週末に米国政府(USTR)からFTA協議開始の申し出があったことを明らかにしつつも、それを断ったことを発表しました。つまり、バスケス発言によって、これまで9ヶ月以上も検討を重ねてきたFTA協議は帳消しになったわけです。先々週のENCEのウルグアイ撤退に続く失態をウルグアイ政府は犯してしまったのかもしれません。

◆バスケス大統領が対米FTAを断念したのは、2007年6月末とするファースト・トラック期限までにFTAをモノにするには時間的にも不十分といった理由だそうです。念のため、これまで両国がFTAを締結する際に考えていた戦略を整理しますと、ウルグアイ側が牛肉、乳製品、ソフトウェア、羊毛といった産品の輸出拡大、米国側が知的財産権、政府調達、公的企業の扱いであったと報じられています。

◆バスケス大統領は、引き続き通商協定については「前進できるだけ前進する」と前向きな姿勢を示していますが、その声明には空虚感が漂います。同大統領周辺では、FTAの替わりに、先般両国が批准した二国間投資協定の補則として盛り込むこと、又は貿易投資枠組み協定の可能性を示唆しているとも報じられています。例えば、後者の場合ですが、どのようなものなのでしょうか。ジェトロが出している通商弘報記事から拝借します。

貿易・投資枠組み協定(Trade and Investment Framework Agreement: TIFA)
 締結国間において,投資家の法的保護,知的財産権保護,税関手続きの透明性・公平性確保,政府規制や商業規則の透明性向上などを図るため,双方の政府代表者からなる貿易投資委員会(CTI)を設立する。委員会メンバーは定期的に会合を開き,民間の意見を聴取しつつ,二国間の懸案事項を協議,問題の解決を図る。
 TIFAは,相手国に関税上の特恵待遇やその他特別な便宜を供与するものではなく,話し合いの場を設けるための枠組み。したがって,締結・発効にあたり議会の承認は不要。米側はUSTRが代表。米国は従来からFTAを結ぶ前提として, WTOへの加盟やTIFAの締結を求めてきたが,これは慣習上の要請であり法的な要件ではない。


◆FTAやらTIFAやらアルファベットを並べていれば格好がついたように聞こえますが、もしバスケス大統領が本気でTIFAで良いと思っているのであれば、それは従来のFTAを前提とした協議を進めてきた者にとって大きな後退になります。同大統領は、知的財産権や政府調達といったウルグアイにとっての負の部分を享受したくないために、最終的にはFTAを断念したと考えられます。一部報道では、同大統領の出自(医師)とも大いに関係のある製薬業界がFTA締結によってダメージを受けるとも伝えられていました。

◆一方で、バスケス大統領が願っている牛肉等の輸出拡大がTIFAを通じて実現する道のりは果てしなく遠いと言っても良いのではないでしょうか。先の解説にも書いてあるとおり、TIFAは「話し合いの場を設けるための枠組み」なのであって、従って議会の批准が必要ないのです。つまり、TIFA締結といっても、実質的には何もしないのと同じです。もう一つの選択肢である二国間投資協定の補則を作ることによって、文言の中に牛肉等の関税を低く据え置くことが可能であるとの発言も同大統領は行ったようですが、そのような「美味しいところ取り」を米国が易々と認めるのか不明です。

◆そして、ウルグアイと米国との二国間関係において、今回はウルグアイが焚き付けたFTA騒動です。米国がご丁寧にもウルグアイ政府にFTA交渉開始の案内を出した途端に、掌を返すような真似をとったのです。ブッシュ政権としては、「本気にさせやがって」と苦虫を噛み潰していることでしょう。バスケス政権は今回の一件で米国からの信用を大きく失墜させたとみています。今後の進展によっては、ウルグアイの孤立化だけが今回の成果になるかもしれません。