◆皆さまご存じのとおり、ウルグアイは既に欧州方式(DVB-T)に決定していましたが、先般来、日本政府とブラジル政府がウルグアイを日本方式にひっくり返そうと頑張っています。現地メディアでも11月から頻繁に報じており。どうもムヒカ大統領もそれに乗っかりそうだという様子になってきています。今日は、その辺りを書いてみます。
◆欧州方式だったウルグアイに変化の兆しが見えたのはムヒカ大統領が就任した今年3月からです。同大統領は前政権で決めた欧州方式の再検討を明らかにしました。大きな理由として考えられるのは、ウルグアイ政府が欧州方式の決定という政治的な賭けに敗れたことです。
◆今回の地デジの方式もそうですが、ウルグアイが決定に際して重視するものの一つが、関連産業の投資呼び込みと雇用の創出です。07年に欧州方式をいち早く採用したのは、当時南米大陸で優勢であった欧州方式をいち早く採用することで、欧州企業のウルグアイへの投資促進を加速させる目論見があったためと言われています。当時、ノキアが進出するなどの噂が流れるほどでしたし、欧州勢はかなり本気で南米大陸の地デジ方式の席巻を狙っていました。
◆ムヒカ大統領就任以降、日本政府からは総務省審議官レベル、ブラジル政府からは大統領を頂点に、ウルグアイ政府との協議を継続していました。ウルグアイ政府からは、貧困層向けの機材(セットトップボックス)の無償提供、オーディオ・ビジュアル産業の研究開発支援、地デジ方式普及にかかる各種支援などが日本方式への変更に向けた条件として提案されており、11月上旬に日本政府はそれら技術的な側面での回答を中心に行ったとの報道がされています。
◆ただ、07年にウルグアイが欧州方式に決めた背景は、技術的な理由だけではなく、むしろ自国産業の発展を意識したものであり、その切り口を十分に理解するブラジル政府からはウルグアイ経済の発展と雇用に資する2.9億ドル相当、3,000名の直接雇用に繋がる民間投資の提案を11月に行いました。具体的には、地デジ機材(セットトップボックス)の工場進出をはじめ、病院建設、ショッピングモール建設、自動車関連や化粧品関連工場の進出など、要は何でもありです。また、ブラジル政府は、これら案件に対するBNDES(ブラジル国立経済社会開発銀行)の融資枠を約束しただけで、予定は未定なのですが、今のブラジルの景気からすると現実的な印象を与えます。
◆一方、青色吐息の欧州勢からウルグアイ政府に約束されているのは1,000万ユーロ相当。目の前にニンジンをぶら下げられたムヒカ大統領は、12月5日、今月中までに決定することをブラジル側に伝えています。政権内では、欧州方式を支持する工業省(地デジ所管官庁)と、南米統一方式構想や今後のブラジルとの関係強化を目指す立場から日本方式を支持する外務省で意見が対立しているようですが、最終的にはムヒカ大統領が決める運びになります。
◆さて、日本方式への逆転という僥倖(ぎょうこう)が実現した暁には、これを奇禍として、特に経済・産業面での両国の遣り取りがもっと多くなればと願っています。今回の一連の流れの中で日本サイドに足りないのは、日本企業レベルの動きに繋がるような動きが見えてこない点です。これは、どこかの企業が進出を約束するといった類ではなく、ウルグアイ側が日本企業の誘致に熱心なのであれば、日本側もそれを円滑にさせる仕掛けを率先して整えてみてはということです。
◆そのような動きの一例を紹介します。07年3月、ウルグアイのレプラ工業相(当時)はアルゼンチンで開かれた現地日本商工会議所の昼食会でウルグアイの投資誘致について講演が行われました。当時ウルグアイは既に日本方式か欧州方式かを検討しており、同相はウルグアイへの投資に関心があれば遠慮なく自分にコンタクトして欲しいとの主旨の話をしていました。日本政府がウルグアイの経済発展を考えている姿勢を見せつつ、日本企業にもウルグアイの政権幹部とのチャンネルを作るという機会を提供するという一石二鳥のチャンスの見地に立ったものでした。
◆先日、ブラジル・サンパウロで、ウルグアイ進出への漠然とした関心を持つ日系企業の話を聞きましたが、その方に必要なのはそれが具現化されるための情報とチャンネルだと思います。例えば、ウルグアイのハイレベルの方にサンパウロで喋っていただく機会があるだけで、似たような関心を抱く現地日系企業の選択肢は格段に増えるのではないでしょうか。今年10月、韓国のサムスンはウルグアイに物流センターを1,500万ドルかけて設立することを発表しましたが、その背景は何か。それだけでも在ブラジル日系企業の関心をそそり、ウルグアイの魅力を知る上で面白いポイントになるのではないでしょうか。案外、ブラジルからウルグアイを見ている企業は多いようです。
◆日本と南米が地デジ方式で結ばれることの何処に価値があるかというと、その方式の普及も然ることながら、それを一つの触媒として経済・産業面等々で日本と当該国の可能性を見出すところにあるのではないかと思っています。ウルグアイについては、この切り口において、他国と比べてまだそれほどの手垢がついていませんし、小国であるため、アイデア次第では面白い展開ができると思っています。